経理職は専門性が高く、企業の経営を支える重要な役割を担います。本記事では、経理職を目指す上で不可欠な知識、求められるスキル、そしてキャリアアップに繋がる資格まで、網羅的に解説いたします。未経験から経理のプロフェッショナルを目指すための具体的なステップを学びましょう。
経理職に不可欠な会計の基礎知識
経理業務の根幹をなすのは会計知識です。企業の経済活動を正確に記録・報告するためのルールを理解することが第一歩となります。ここでは、経理担当者が最低限押さえておくべき3つの会計分野について解説します。
財務会計:社外への報告
財務会計は、株主や債権者、投資家といった社外の利害関係者に対して、企業の財政状態や経営成績を報告することを目的とします。これは、法律や会計基準といった統一されたルールに基づいて行われ、透明性と比較可能性を担保します。具体的には、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュ・フロー計算書(C/S)からなる「財務三表」を作成します。これらの書類は、企業会計原則の「第一 一般原則 一 真実性の原則」に基づき、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供しなければならないとされています。
管理会計:社内での意思決定
管理会計は、経営者や各部門の管理者など、社内の意思決定に役立つ情報を提供することを目的とします。財務会計のような厳格なルールはなく、企業独自の目的や戦略に合わせて柔軟に設計されます。例えば、事業部別の業績評価、製品ごとの原価計算、予算実績管理、損益分岐点分析などが含まれます。これにより、経営陣はより効果的な経営戦略を立案し、実行することが可能となります。
税務会計:税金の計算と申告
税務会計は、法人税や消費税などの税額を正確に計算し、税務署へ申告・納税することを目的とします。会計上の利益(財務会計)と税法上の所得は必ずしも一致しないため、その差異を調整する「申告調整」という手続きが必要になります。税法という法律に基づいて行われるため、正確な知識と法令遵守が強く求められる分野です。
経理の実務で求められる具体的スキル
経理職として実務を遂行するためには、会計知識だけでなく、それを実務に落とし込むための具体的なスキルが求められます。ここでは、日々の業務で特に重要となるスキルを3つご紹介します。
簿記の知識と仕訳スキル
簿記は、企業の取引を借方と貸方に分類し、帳簿に記録するための技術です。全ての経理業務の基礎であり、日々の伝票起票から決算書の作成まで、あらゆる場面でこの知識が必要となります。特に、日商簿記検定2級レベルの知識は、多くの企業で実務の最低ラインとして求められます。資産、負債、純資産、収益、費用の5つの要素を正しく理解し、迅速かつ正確に仕訳を切る能力は必須です。
PCスキル(会計ソフト・Excel)
現代の経理業務はPCスキルなしには成り立ちません。多くの企業では会計ソフトが導入されており、その操作に習熟する必要があります。また、Excelはデータ集計や分析、報告資料の作成など、多岐にわたる場面で活用されます。基本的な関数(SUM, IF, VLOOKUPなど)はもちろん、ピボットテーブルを使いこなせると、業務効率が格段に向上し、高く評価されます。
コミュニケーションスキル
経理は単独で完結する仕事ではありません。他部署からの経費精算の問い合わせ対応、営業部門との売上計上に関する確認、経営層への業績報告など、社内外の様々な関係者との連携が不可欠です。専門的な会計内容を、会計知識のない相手にも分かりやすく説明する能力や、必要な情報を的確にヒアリングする能力といったコミュニケーションスキルが求められます。
経理の年間業務スケジュール
経理の業務は、日次、月次、年次というサイクルで動いています。繁忙期と閑散期を把握し、計画的に業務を進めることが重要です。ここでは、3月決算の企業を例に、大まかな年間スケジュールを解説します。
時期 | 主な業務内容 |
4月~5月 | 年次決算業務、決算書の作成、法人税・消費税等の申告・納付、株主総会の準備 |
6月~7月 | 住民税の年度更新、労働保険の年度更新、社会保険料の算定基礎届の提出 |
8月~11月 | 上半期の締め、中間決算(該当企業のみ)、中間納税(該当企業のみ)、比較的業務が落ち着く時期 |
12月~1月 | 年末調整、給与支払報告書の作成・提出、法定調書の作成・提出、償却資産税の申告 |
2月~3月 | 年次決算準備、実地棚卸の準備・実施、固定資産の確認 |
会計基準の理解と実務への応用
経理業務は、会計基準というルールに則って行われます。会計基準は企業の会計処理や財務諸表の作成方法を定めたものであり、経理担当者はその内容を正しく理解し、実務に適用する責任があります。
企業会計原則の7つの一般原則
企業会計原則は、日本の会計実務における最も基本的なルールであり、全ての会計基準の基礎となっています。特に、以下の7つの一般原則は、経理担当者として常に意識すべき指針です。
原則 | 概要 |
真実性の原則 | 企業の財政状態及び経営成績について、真実な報告を提供しなければならない。 |
正規の簿記の原則 | すべての取引につき、正確な会計帳簿を作成しなければならない。 |
資本取引・損益取引区分の原則 | 資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。 |
明瞭性の原則 | 財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示しなければならない。 |
継続性の原則 | その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。 |
保守主義の原則 | 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。 |
単一性の原則 | 目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合でも、その内容は信頼しうる会計記録に基づくものでなければならない。 |
収益認識に関する会計基準の重要性
近年、特に重要度を増しているのが「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)です。この基準は、いつ、いくら売上を計上すべきかという「収益認識」のルールを定めています。具体的には、顧客との契約における「履行義務」を識別し、その履行義務が充足されたときに収益を認識するという5つのステップを適用します。例えば、ソフトウェアのライセンス販売と保守サービスをセットで提供する場合、これらを別々の履行義務として識別し、それぞれが充足されるタイミングで収益を計上する必要があります。この基準の理解は、正確な業績報告のために不可欠です。詳細は収益認識に関する会計基準および収益認識に関する会計基準の適用指針をご参照ください。
キャリアアップに繋がる有利な資格
経理職としての専門性を証明し、キャリアアップや転職を有利に進めるためには、資格取得が有効な手段です。自身の目指すキャリアパスに合わせて、戦略的に資格取得を目指しましょう。
日商簿記検定
経理・会計分野で最も知名度が高く、実務能力の証明として広く認知されている資格です。2級は企業の経理担当者に必須の知識とされる商業簿記・工業簿記を網羅しており、多くの求人で応募条件とされています。1級を取得すると、会計基準や会社法など、より高度な会計知識を持つ専門家として評価され、大企業の経理や会計コンサルタントへの道も開けます。
FASS検定(経理・財務スキル検定)
経理・財務分野における実務知識とスキルのレベルを客観的に測定する検定です。資産、決算、税務、資金の4分野から網羅的に出題され、合否ではなくスコアで評価される点が特徴です。自身のスキルレベルを客観的に把握し、強みと弱みを分析するのに役立ちます。大手企業では社内教育の一環として導入されているケースもあります。
税理士・公認会計士
経理・会計分野の最高峰に位置する国家資格です。税理士は税務のスペシャリストとして、税務相談や申告代理業務を行います。公認会計士は会計監査の専門家として、企業の財務諸表が適正であるかを監査します。どちらも取得難易度は非常に高いですが、取得すれば経理・財務のプロフェッショナルとして、独立開業や企業のCFO(最高財務責任者)など、キャリアの選択肢が大きく広がります。
まとめ
経理職を目指すには、財務会計・管理会計・税務会計といった基礎知識の習得が不可欠です。その上で、日々の業務を遂行するための簿記やPCスキル、そして他部署と連携するためのコミュニケーションスキルを磨く必要があります。年間スケジュールを把握し、会計基準に基づいた正確な処理を心掛けることがプロフェッショナルへの道です。日商簿記検定などの資格取得は、自身のスキルを客観的に証明し、キャリアアップを実現するための強力な武器となります。本記事で解説した知識を体系的に学び、経理としてのキャリアを着実に歩んでください。
参考文献:
- 企業会計原則・同注解 (企業会計審議会)
- 収益認識に関する会計基準 (企業会計基準委員会)
- 収益認識に関する会計基準の適用指針 (企業会計基準委員会)