企業の経営において、お金の流れを管理する部門は不可欠です。その中でも「経理」と「財務」は混同されやすい役職ですが、その役割と業務内容は大きく異なります。経理が企業の「過去から現在」のお金の動きを正確に記録・管理する守りの役割を担うのに対し、財務は「未来」を見据えて資金を調達・運用する攻めの役割を担います。本記事では、経理と財務の明確な違い、具体的な業務内容、そして会計との関係性について詳しく解説します。
経理と財務の根本的な違い
経理と財務の最も大きな違いは、担当する「時間軸」です。経理は過去に発生した取引を記録し、現在の財政状態を正確に把握することに重点を置きます。一方、財務は経理が作成したデータをもとに、未来の事業計画に必要な資金をどのように調達し、運用していくかを計画・実行します。両者は密接に連携しており、正確な経理業務なくして、効果的な財務戦略は成り立ちません。
項目 | 経理 |
役割 | 過去から現在のお金の流れを正確に記録・管理する |
時間軸 | 過去・現在 |
主な業務 | 日々の記帳、伝票処理、決算書の作成、税務申告 |
項目 | 財務 |
役割 | 未来の事業活動に必要な資金を計画・調達・運用する |
時間軸 | 未来 |
主な業務 | 資金調達(融資、出資)、予算管理、資金運用、財務戦略立案 |
経理の具体的な業務内容
経理の業務は、企業の経済活動を日々記録し、最終的に決算書としてまとめる一連のプロセスを指します。その業務は、日次、月次、年次というサイクルで進められます。これらの業務は、すべての取引を正規の簿記の原則に従って記録するという「企業会計原則(第一 一般原則 二)」に基づいています。
日常のお金の動きを記録する「日次業務」
日次業務は、会社の日々のお金の出入りを管理する基本的な業務です。具体的には、交通費や備品購入費などの経費精算、取引先への支払いや売上の入金確認、そしてそれらの取引を会計システムに入力し、伝票を作成・整理する作業が含まれます。1円単位での正確性が求められる、経理の根幹をなす業務です。
月単位で経営状況を把握する「月次業務」
月次業務では、1ヶ月分の日次業務のデータを集計し、経営陣が迅速な意思決定を行えるようレポートを作成します。主な業務には、取引先への請求書発行と売掛金の回収管理、仕入先への買掛金の支払い、従業員の給与計算と支払い、そして月次決算書の作成があります。これにより、月ごとの業績をタイムリーに把握することが可能になります。
企業の1年間の成績を示す「年次業務」
年次業務は、1年間の経理業務の集大成です。会計年度の締めくくりとして、年次決算を行い、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成します。作成された財務諸表に基づき、法人税や消費税などの税務申告と納税を行います。また、株主総会のための事業報告書や計算書類の作成も重要な業務の一つです。企業の1年間の財政状態と経営成績を外部の利害関係者に報告するための、極めて重要なプロセスです。
財務の具体的な業務内容
財務の業務は、経理が作成した財務諸表を分析し、企業の持続的な成長を実現するための資金戦略を立案・実行することです。企業の血液ともいえる資金を最適に管理し、企業価値の最大化を目指します。
事業継続の血液を確保する「資金調達」
企業の事業拡大や設備投資には多額の資金が必要です。財務部門は、これらの資金を確保するために最適な方法を選択し、実行します。例えば、新工場建設のために金融機関から融資を受けるための交渉を行ったり、新規事業立ち上げのために第三者割当増資により資金を調達したりします。また、社債を発行して市場から直接資金を調達する計画を立てることもあります。
企業価値を最大化する「資金運用」
調達した資金や事業活動で得た余剰資金を、いかに効率的に運用して企業価値を高めるかも財務の重要な役割です。例えば、手元資金1億円を安定性の高い国債や投資信託で運用する計画や、将来の成長を見込んでスタートアップ企業へ5,000万円の出資を行うといった投資判断を下します。M&A(企業の合併・買収)による事業拡大も、財務戦略の一環として検討されます。
会社の未来を描く「財務戦略・予算管理」
財務戦略は、経営計画と密接に連携し、中長期的な視点で企業の資金計画を策定する業務です。これには、キャッシュ・フローの管理や将来の資金繰りの予測が含まれます。「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」などを参考に、企業の資金の流れを詳細に分析します。また、全社の予算を策定し、各部門へ適切に配分する予算管理も行います。例えば、来期の研究開発部門の予算を前年比15%増の3億円に設定し、その進捗を四半期ごとに管理するといった業務が挙げられます。
会計との関係性
「会計」は、経理や財務よりも広い概念であり、企業のお金に関する活動全般を指します。会計は、その目的によって「財務会計」と「管理会計」の2つに大別され、経理と財務はそれぞれと深く関わっています。
外部報告を目的とする「財務会計」
財務会計は、株主、投資家、債権者、税務当局といった外部の利害関係者に対して、企業の財政状態と経営成績を報告することを目的としています。法律や会計基準(例:「企業会計原則」)に則って財務諸表を作成することが求められ、この領域は主に経理部門が担当します。
内部の意思決定に役立てる「管理会計」
管理会計は、経営者や各部門の管理者が経営上の意思決定を行うために必要な情報を提供することを目的としています。決まったフォーマットはなく、企業独自の基準で予算実績管理、原価計算、事業部別採算性の分析などを行います。この領域は、財務部門が深く関与し、経営戦略の立案に活用されます。
企業規模による役割分担の違い
経理と財務の役割分担は、企業の規模によって大きく異なります。それぞれの組織体制にはメリットとデメリットが存在します。
企業規模 | 役割分担と特徴 |
中小企業・スタートアップ | 経理担当者が財務業務を兼任することが一般的です。メリットは、担当者が会社全体の資金の流れを把握しやすく、迅速な対応が可能である点です。デメリットは、専門性が分散し、高度な財務戦略の立案が難しくなる可能性がある点です。 |
大企業 | 経理部と財務部が独立した専門部署として設置されています。メリットは、各分野の専門性を高め、牽制機能を働かせることで内部統制を強化できる点です。デメリットは、部門間の連携が不足すると、情報共有の遅れや意思決定の非効率化を招くリスクがある点です。 |
まとめ
本記事では、経理と財務の違いについて、その役割、業務内容、会計との関係性の観点から解説しました。経理は過去から現在のお金の流れを正確に記録する「守り」の機能を、財務は未来の企業価値向上を目指して資金を動かす「攻め」の機能を担っています。この両輪が適切に機能し、緊密に連携することが、企業の健全な成長と発展に不可欠です。自社の経理・財務体制を見直す際の一助となれば幸いです。
参考文献:
- 企業会計審議会「企業会計原則・同注解」: https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=81
- 経理業務の基本となる、すべての取引を正規の簿記の原則に従って記録する義務について(第一 一般原則 二)などが定められています。
- 企業会計基準委員会(ASBJ)「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」: https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=85
- 財務部門がキャッシュ・フローを管理・分析する際の基準となります。