企業会計において、固定資産の収益性が著しく低下した場合に行う減損処理は、企業の正確な財務状態を把握するために不可欠な手続きです。本記事では、「固定資産の減損に係る会計基準」および「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に基づき、減損会計の適用対象となる資産の原則と、対象外となる例外規定について詳細に解説いたします。
減損会計の対象となる資産の原則
減損会計の適用対象は、原則として貸借対照表において固定資産に分類される資産です〔減損会計基準 一、適用指針 第5項〕。貸借対照表上で「固定資産」という科目を明示していない業種であっても、実質的な内容が固定資産に該当するものは適用対象に含まれる点に留意が必要です〔適用指針第6号第68-2項〕。
対象となる固定資産の種類
具体的には、事業の用に供されている一般的な建物や機械装置をはじめとして、以下の分類に該当する資産が減損会計の対象となります〔適用指針第6号第5項、第68-2項〕。なお、繰延資産は固定資産に分類されないため、本基準の対象外となり、支出の効果が期待されなくなった場合には一時的に償却処理が行われます〔適用指針第6号第68-2項〕。
| 資産の分類 | 対象資産の具体例 |
|---|---|
| 有形固定資産 | 建物、機械装置、土地、建設仮勘定など |
| 無形固定資産 | のれん、自社利用のソフトウェアなど |
| 投資その他の資産 | 投資不動産、長期前払費用(財務活動を除く)など |
投資不動産や建設仮勘定の取扱い
賃貸収益や資本増価を目的として保有する投資不動産についても、活発な市場を有しない不動産の時価把握が困難であることや、事業遂行上の制約から直ちに売買できない実態を考慮し、他の有形固定資産と同様に取得原価基準の下で減損会計の対象となります〔減損会計意見書 六 1.、適用指針第6号第68-2項〕。また、まだ稼働していない建設仮勘定であっても、減損の兆候が認められる場合には対象資産として検討する必要があります〔適用指針第6号第68-2項〕。
対象資産から除外される固定資産(例外規定)
貸借対照表上で固定資産に分類されるものであっても、他の会計基準において既に評価や減損処理に関する独自の定めが設けられている資産については、資産評価における実務上の混乱や評価減の二重計上を防ぐため、本基準の対象から除外されます〔減損会計基準 一〕。
他の会計基準で減損処理が定められている資産
除外の対象となるのは、「減損処理」という文言が明確に用いられている基準に限らず、実質的に類似の会計処理が規定されている場合も含まれます〔適用指針第6号第69項〕。具体的に除外される資産とその根拠は以下の通りです。
| 除外される資産 | 根拠となる他の会計基準等 |
|---|---|
| 金融資産(有価証券など) | 金融商品に関する会計基準〔減損会計基準 一、適用指針第6号第6項(1)〕 |
| 繰延税金資産 | 税効果会計に係る会計基準〔減損会計基準 一、適用指針第6号第6項(2)〕 |
| 前払年金費用・退職給付に係る資産 | 退職給付に関する会計基準〔減損会計意見書 四 1.、適用指針第6号第6項〕 |
財務活動から生ずる経過勘定項目
長期前払費用は原則として減損会計の対象となりますが、長期前払利息などの財務活動から生ずる経過勘定項目については、事業投資としての性質を持たないため対象から除外されます〔適用指針第6号第6項、第68-2項〕。
ソフトウェアにおける減損会計の適用
ソフトウェアについては、その保有目的によって適用される会計ルールが異なるため、減損会計の対象となるかどうかの判断が分かれます。
自社利用ソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアの違い
市場販売目的のソフトウェアは、「研究開発費等に係る会計基準」の実務指針において、未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回った場合に、その超過額を一時の費用又は損失として処理するルールが規定されています。これが実質的な減損処理に相当するため、本基準の対象から除外されます〔適用指針第6号第6項(3)、第69項〕。一方で、自社利用のソフトウェアについては類似の評価減規定が存在しないため、原則通り本減損会計基準の対象資産として取り扱われます〔適用指針第6号第69項〕。
リース取引と使用権資産の取扱い
リース会計基準等の適用に伴い、借手が貸借対照表に計上するリース関連の資産についても、減損会計の適用範囲を正確に判定する必要があります。
使用権資産の原則と例外
借手がリース会計基準に基づき固定資産として計上する使用権資産は、減損会計の対象に含まれます〔企業会計基準第35号 BC4、適用指針第6号第68-2項〕。ただし、短期リースや少額リースに関する簡便的な取扱いを適用し、貸借対照表に資産計上していないリースについては、減損会計基準を適用しないことと整理されています〔企業会計基準第35号 BC5、BC6〕。
所有権移転外ファイナンス・リースの特例
借手がリースについて、企業会計基準第13号の適用初年度開始前である所有権移転外ファイナンス・リース取引の取扱いにより、例外的に通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理(オフバランス処理)を行っている場合でも、当該リースに係る使用権資産(リース資産)の減損処理を検討する必要があります〔企業会計基準第35号 注12、適用指針第6号第60項〕。この場合、当該リースに係る未経過リース料の現在価値を帳簿価額とみなして適用しますが、重要性が低い場合は割引前の未経過リース料を用いる簡便的な取扱いも認められています〔適用指針第6号第62項〕。
実務ケーススタディ
実際の会計実務において、減損会計の適用範囲がどのように判定されるか、情報通信業を営む企業の期末決算を例に解説します。
IT企業における資産選別の具体例
企業が保有する固定資産等のリストに基づき、減損テストの対象となるか否かを厳格なルールに従って判定します。
| 保有する資産項目 | 減損会計の適用判定と根拠 |
|---|---|
| 自社利用の業務基幹システム | 対象:他の基準に減損処理の定めがないため〔適用指針第6号第69項〕 |
| 市場販売目的のパッケージソフトウェア | 除外:見込販売収益に基づく実質的な評価減が行われるため〔適用指針第6号第6項(3)〕 |
| 本社オフィスの使用権資産 | 対象:リース会計基準に基づく固定資産であるため〔適用指針第6号第68-2項〕 |
| 短期リース契約の倉庫(未計上) | 除外:簡便的な取扱いにより資産計上されていないため〔企業会計基準第35号 BC6〕 |
| 繰延税金資産 | 除外:税効果会計基準に基づく回収可能性の検討を行うため〔適用指針第6号第6項(2)〕 |
このように、各資産の性質と関連する会計基準を照らし合わせ、自社利用ソフトウェアや計上された使用権資産を対象資産グループとして特定し、収益性の低下等の減損の兆候の把握へと進むことになります。
まとめ
減損会計の適用対象は、原則として貸借対照表上の固定資産全般に及びますが、金融資産や繰延税金資産など、他の会計基準で評価ルールが定められている資産は重複を避けるために除外されます。また、ソフトウェアの保有目的やリースの会計処理方法によっても適用関係が変動するため、各資産の性質と関連する会計基準を正確に把握し、適切な減損テストを実施することが求められます。
参考文献
企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正
企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
減損会計の適用範囲に関するよくある質問まとめ
Q.減損会計の対象となる資産の原則は何ですか?
A.原則として貸借対照表において「固定資産」に分類される有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産が対象です〔減損会計基準 一、適用指針第6号第5項〕。
Q.投資不動産は減損会計の対象になりますか?
A.はい、賃貸収益や資本増価を目的とする投資不動産も、他の有形固定資産と同様に減損会計の対象となります〔減損会計意見書 六 1.、適用指針第6号第68-2項〕。
Q.市場販売目的のソフトウェアは減損会計の対象ですか?
A.いいえ、「研究開発費等に係る会計基準」において実質的な減損処理が規定されているため、本基準の対象から除外されます〔適用指針第6号第6項(3)、第69項〕。
Q.自社利用のソフトウェアは減損の対象になりますか?
A.はい、自社利用のソフトウェアは他の基準に減損処理の定めがないため、原則通り本基準の対象資産となります〔適用指針第6号第69項〕。
Q.リース契約による使用権資産は減損会計の対象ですか?
A.リース会計基準等に基づき貸借対照表に計上された使用権資産は対象となりますが、短期リース等で資産計上していない場合は対象外です〔適用指針第6号第68-2項、企業会計基準第35号 BC4〕。
Q.繰延税金資産は減損会計の対象に含まれますか?
A.いいえ、「税効果会計に係る会計基準」において回収可能性の検討が定められているため、減損会計の対象からは除外されます〔減損会計基準 一、適用指針第6号第6項(2)〕。