固定資産の減損に係る会計基準は、原則として貸借対照表に計上される有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産を対象としています。しかし、すべての固定資産が無条件に減損テストの対象となるわけではありません。他の会計基準において既に独自の減損処理や評価規定が設けられている資産については、会計処理の重複を避けるために適用対象から明確に除外されています。本記事では、減損会計の適用対象外となる資産の具体例、ソフトウェアにおける保有目的別の取扱いの差異、そして決算実務における対象資産のスクリーニング手法について詳細に解説いたします。
減損会計の適用対象外となる資産の基本原則
減損会計基準の適用対象外となる資産の基本的な考え方と、代表的な除外資産について解説いたします。
他の会計基準で減損処理が定められている資産
基本原則として、他の会計基準により独自の評価基準や減損処理が規定されている資産は、減損会計基準の適用対象から除外されます。これは、会計基準間の重複による実務上の混乱を防ぎ、同一の資産に対して減損損失が二重に計上される事態を回避するためです(減損会計基準 一(注1)、減損会計意見書 四 1.、適用指針第6号第6項)。
対象外となる金融資産と繰延税金資産
具体的に適用対象外として列挙されている代表的な資産に、金融資産と繰延税金資産があります。これらはそれぞれ独立した会計基準において、厳密な評価方法と回収可能性の判定ルールが定められています。
| 資産の種類 | 適用される会計基準と除外の根拠 |
|---|---|
| 金融資産(有価証券など) | 金融商品に関する会計基準において、時価評価や実質価額の著しい下落に伴う減損処理が規定されているため対象外となります(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項(1))。 |
| 繰延税金資産 | 税効果会計に係る会計基準において、将来の回収可能性に基づく評価性引当額の計上等が定められており、毎期評価が見直されるため対象外となります(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項(2))。 |
前払年金費用及び退職給付に係る資産の取扱い
前払年金費用や退職給付に係る資産についても、退職給付に関する会計基準等において、年金資産の時価評価や数理計算上の差異の償却など、独自の評価や会計処理の定めが存在します。そのため、これらも減損会計基準の適用対象資産からは除外されることになります(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項)。
ソフトウェアにおける保有目的別の取扱いの差異
無形固定資産として計上されるソフトウェアは、その保有目的によって減損会計の適用対象となるかどうかが厳密に区分されます。
市場販売目的のソフトウェア(適用対象外)
研究開発費等に係る会計基準において無形固定資産として計上されている市場販売目的のソフトウェアは、本減損会計基準の適用対象から除外されます。当該ソフトウェアについては、未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回った場合に、その超過額を一時の費用又は損失として処理するルールが存在し、これが実質的な減損処理に相当するとみなされるためです(適用指針第6号第6項(3)、第69項)。
自社利用のソフトウェア(適用対象)
一方で、自社利用のソフトウェアについては、他の会計基準において減損処理に類似した会計処理が規定されていないため、原則として減損会計基準の適用対象として取り扱われます。仮に、自社利用ソフトウェアを用いて外部へサービスを提供する契約があり、市場販売目的に準じて見込販売収益に基づく償却を行っていたとしても、超過額を一時の損失とする規定の適用を直接受けない限り、適用対象資産のままとなります(適用指針第6号第69項)。
| ソフトウェアの保有目的 | 減損会計基準の適用判定 |
|---|---|
| 市場販売目的 | 適用対象外(見込販売収益に基づく一時損失処理の規定があるため) |
| 自社利用目的 | 適用対象(類似の減損規定が存在しないため) |
財務活動から生ずる経過勘定及び未計上のリース資産
金融資産やソフトウェア以外にも、性質や重要性の観点から減損会計の適用対象外として扱われる項目があります。
財務活動から生ずる経過勘定項目の除外
長期前払利息などの財務活動から生ずる経過勘定項目は、事業投資の成果として将来のキャッシュ・フローを生み出す固定資産とは性質が根本的に異なります。そのため、減損会計が対象とする資産の定義にそぐわず、適用対象資産から除外されます(適用指針第6号第6項、第68-2項)。
未計上の使用権資産に対する不適用の根拠
リース会計基準に基づき、短期リース及び少額リースについて簡便的な取扱いを適用し、借手が貸借対照表に使用権資産を計上しないことを選択した場合、当該リースに関する資産は減損会計基準の適用対象外となります。これは、金額的又は期間的に重要性に乏しいため資産計上しない簡便法が容認されており、資産として計上しなくても財務諸表利用者の有用性が大きく損なわれないため、新たに減損会計を適用することは整合的ではないという結論の根拠に基づいています(企業会計基準第35号 BC5、BC6)。
対象外規定の背景と「実質的な減損処理」の解釈
特定の資産が減損会計の対象から除外される理論的な背景と、実務における規定の解釈について解説します。
会計基準間の重複と二重計上の防止
これらの資産が減損会計基準の対象から除外される最大の背景は、会計基準間の重複による実務上の混乱や、減損損失の二重計上を防ぐことにあります。各資産のリスクや性質に応じた最適な評価基準が既に存在する場合、それを優先して適用することが会計理論上適切であると考えられています(減損会計意見書 四 1.、適用指針第6号第69項)。
実質的な減損処理に相当する規定の解釈
この除外規定の適用にあたっては、他の会計基準において必ずしも「減損処理」という直接的な文言が用いられていなくても、「類似した会計処理」が規定されていれば除外の対象となると広く解釈されます。市場販売目的のソフトウェアにおける「超過額を一時の損失として処理する」というルールが、実質的な減損処理に相当するとみなされるのはこの解釈に基づく論理的結論です(適用指針第6号第69項)。
IT企業における決算時の減損スクリーニング実務
実際の決算実務において、減損会計の適用対象外となる資産をどのようにスクリーニングするかをケーススタディで解説します。
減損テスト対象資産の特定プロセス
期末決算において、企業は保有するすべての固定資産に対して減損テストを実施する前段階として、対象資産の特定を行う必要があります。固定資産台帳に計上されている資産の中から、他の会計基準で減損の定めがある資産や、重要性の観点から未計上とされたリース資産などを厳密に除外し、純粋に減損会計基準を適用すべき資産グループを抽出します。
実務ケーススタディにおける具体的な除外判定
ソフトウェア開発とクラウドサービス提供を主業とするIT企業の固定資産を例に、具体的な判定プロセスを示します。
| 計上(把握)されている資産 | 減損会計の適用判定と根拠 |
|---|---|
| 取引先との関係強化目的の投資有価証券 | 適用対象外(金融商品会計基準に基づく減損処理が適用されるため)(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項(1)) |
| 将来の税負担軽減を見込んだ繰延税金資産 | 適用対象外(税効果会計基準に基づき回収可能性が再評価されるため)(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項(2)) |
| 一般消費者向けの市場販売目的ソフトウェア | 適用対象外(別指針で実質的な減損ルールが存在するため)(適用指針第6号第6項(3)、第69項) |
| 社内業務効率化のための自社利用ソフトウェア | 適用対象(他の基準に減損の定めが存在しないため)(適用指針第6号第68-2項、第69項) |
| 事業拡大目的で賃貸したデータセンターの使用権資産 | 適用対象(固定資産として計上されており他の減損規定がないため)(適用指針第6号第68-2項、第69項) |
| 一時イベント用に3か月借りた機材(使用権資産未計上) | 適用対象外(簡便法により資産計上されていない短期リースであるため)(企業会計基準第35号 BC5、BC6) |
まとめ
本記事では、固定資産の減損に係る会計基準における「適用対象外となる資産」について解説いたしました。金融資産、繰延税金資産、市場販売目的のソフトウェアなど、他の会計基準において実質的な減損処理や独自の評価方法が定められている資産は、二重計上を防ぐために本基準の対象から除外されます。また、未計上の短期リース資産なども対象外となります。決算実務においては、固定資産台帳に記載された各資産の性質と保有目的を正確に把握し、適切なスクリーニングを実施した上で、残された対象資産についてのみ減損の兆候の把握や将来キャッシュ・フローの見積りを行うことが求められます。
参考文献
企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正
企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
減損会計の適用対象外に関するよくある質問まとめ
Q.減損会計の適用対象外となる主な資産は何ですか?
A.金融資産、繰延税金資産、前払年金費用、市場販売目的のソフトウェアなどが該当します。これらは他の会計基準で独自の減損処理や評価が定められているためです(減損会計基準 一(注1)、適用指針第6号第6項)。
Q.なぜ他の会計基準で定めがある資産は除外されるのですか?
A.会計基準間の重複による実務上の混乱を避け、減損損失の二重計上を防ぐためです(減損会計意見書 四 1.、適用指針第6号第69項)。
Q.ソフトウェアはすべて減損会計の対象外ですか?
A.いいえ、保有目的により異なります。市場販売目的のソフトウェアは対象外ですが、自社利用のソフトウェアは原則として減損会計の適用対象となります(適用指針第6号第6項(3)、第69項)。
Q.長期前払利息は減損会計の対象となりますか?
A.対象外です。財務活動から生ずる経過勘定項目は、事業投資の成果としてキャッシュ・フローを生み出す固定資産とは性質が異なるため除外されます(適用指針第6号第6項、第68-2項)。
Q.短期リースで資産計上していない機材は減損テストが必要ですか?
A.不要です。簡便的な取扱いにより貸借対照表に使用権資産を計上していないリース資産は、減損会計の適用対象外となります(企業会計基準第35号 BC5、BC6)。
Q.「実質的な減損処理」とはどのような意味ですか?
A.他の会計基準に「減損処理」という文言がなくても、未償却残高が見込収益を上回った際に超過額を一時の損失とするなど、類似の会計処理が定められている状態を指します(適用指針第6号第69項)。