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減損会計の将来キャッシュ・フロー見積り:最頻値法と期待値法の解説

2026-02-07
目次

固定資産の減損に係る会計基準において、減損損失を認識するかどうかの判定や使用価値の算定の基礎となる将来キャッシュ・フローの見積りは、極めて重要なプロセスです。本記事では、会計基準で規定されている「最頻値法」および「期待値法」の2つの見積り手法の定義や、見積値から実績が乖離するリスクの反映方法について、具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。

将来キャッシュ・フローの見積り手法の全体像

減損会計において将来キャッシュ・フローを見積る際、企業は主に2つの手法から自社の状況に適したものを選択することができます。いずれの手法も会計基準によって明確に容認されています〔減損会計基準 二 4.(3)〕。

最頻値法(単一の金額を見積る方法)の定義

最頻値法とは、将来生起する可能性が最も高い「単一の金額(最頻値)」を、将来キャッシュ・フローの見積額として直接採用する手法です。実務上、企業の合理的な事業計画や使用計画に基づいてピンポイントで数値を予測する際に広く用いられます〔適用指針 第39項〕。

手法の名称 最頻値法(単一の金額を見積る方法)
算定の基礎 生起する確率が最も高い単一のシナリオの金額

期待値法(加重平均による方法)の定義

期待値法とは、将来生起し得る「複数の将来キャッシュ・フローのシナリオ」を想定し、それらの金額をそれぞれの発生確率で加重平均した金額(期待値)を将来キャッシュ・フローの見積額として採用する手法です。不確実性の幅を定量的に織り込むことが可能です〔適用指針 第120項〕。

手法の名称 期待値法(加重平均による方法)
算定の基礎 複数のシナリオの金額とそれぞれの発生確率による加重平均値

両手法の併存が認められる背景と結論の根拠

なぜ両手法の選択が認められているのかという背景には、理論的優位性と実務的な実現可能性のバランスへの配慮があります。期待値法は複数の選択肢や変動シナリオを考慮するため理論的には優れていますが、すべての事象の確率分布を正確に想定することは実務上極めて困難です。そのため、企業に過度な負担をかけず合理的な見積りを可能にする目的で、一般的な最頻値法の適用も等しく容認されています〔減損会計意見書 四 2.(4)③〕。

期待値法の長所 不確実性や複数の選択肢を理論的かつ精緻に評価できる
最頻値法の長所 客観的な確率分布の算定が不要であり、実務的な負担が軽減される

見積値から乖離するリスクの反映方法

最頻値法と期待値法のいずれを採用した場合でも、見積られた将来キャッシュ・フローが将来の環境変化等により「実績と乖離するリスク」については、必ず算定プロセスに反映させなければならないと厳格に規定されています〔減損会計基準 注解(注6)〕。

割引率に乖離リスクを反映させるアプローチ

実務上最も多く採用されるのが、この乖離リスクを割引率に反映させる方法です。この場合、将来キャッシュ・フローの見積額自体にはリスク調整を行わず、使用価値を算定するための割引率に対して、資本コストに相応のリスクプレミアムを上乗せした利率を設定します〔適用指針 第39項(1)〕。

将来キャッシュ・フロー 乖離リスクを反映させない(調整前の見積額を使用)
適用する割引率 リスクプレミアムを上乗せした高めの割引率を使用

将来キャッシュ・フローの見積額に直接反映させるアプローチ

もう一つの方法は、乖離リスクを将来キャッシュ・フローの見積額に直接反映させる手法です。将来の不確実性を考慮して見積額を保守的に切り下げる等の調整を行います。この場合、リスクの二重計上を防ぐため、割引率にはリスクプレミアムを含まない「無リスクの割引率(貨幣の時間価値のみを反映した利率)」を使用する必要があります〔適用指針 第39項(2)〕。

将来キャッシュ・フロー 乖離リスクを反映させる(保守的に切り下げた見積額を使用)
適用する割引率 無リスクの割引率(国債利回り等)を使用

期待値法適用時におけるリスク反映の留意点

期待値法を用いて加重平均値を算出した場合でも、算出された期待値がリスクを完全に排除するわけではありません。複数のシナリオの分布(ばらつき)によるリスクが残存するため、期待値法を採用した場合であっても、そのリスクを分子(将来キャッシュ・フロー)又は分母(割引率)のいずれかに反映させる追加の手続きが求められます〔適用指針 設例5(2)〕。

期待値法の誤解 加重平均しただけでリスクが完全に反映されたとみなすこと
正しい実務対応 算出された期待値に対し、別途割引率等で乖離リスクを反映させる

実務ケーススタディ:製造設備におけるシナリオ設定

会計基準の規定が実務においてどのように適用されるか、製造設備の将来キャッシュ・フローを見積る具体的なケーススタディを通じて解説します。

複数のシナリオと生起確率の想定

減損の兆候が認められた製造設備について、市場環境の予測に基づき以下の3つのシナリオを検討しました。楽観的シナリオ(生起確率10%)で75百万円、標準的シナリオ(生起確率80%)で70百万円、悲観的シナリオ(生起確率10%)で65百万円のキャッシュ・フローが生み出されると想定します。

シナリオ(生起確率) 想定される将来キャッシュ・フロー
標準的シナリオ(80%) 70百万円

最頻値法を採用した場合の算定プロセス

実務上の簡便性を重視して最頻値法を選択した場合、3つのシナリオの中で生起する確率が最も高い(80%)「標準的シナリオ」の金額に焦点を当てます。したがって、このケースでは単一の金額である70百万円を、将来キャッシュ・フローの見積額としてそのまま採用します〔適用指針 第120項〕。

採用する手法 最頻値法
将来キャッシュ・フロー見積額 70百万円(最も生起確率が高い金額)

期待値法を採用した場合の算定プロセス

設備の転用等を含めてより精緻に評価するために期待値法を選択した場合、各シナリオの金額と確率を掛け合わせて加重平均します。「(75百万円×10%)+(70百万円×80%)+(65百万円×10%)」という計算式により、7.5百万円+56.0百万円+6.5百万円=70百万円が算出されます。この期待値70百万円を見積額として採用します〔適用指針 設例5(2)〕。

採用する手法 期待値法
将来キャッシュ・フロー見積額 70百万円(各シナリオの加重平均値)

ケーススタディにおけるリスク反映プロセスの共通事項

算出された70百万円という見積額に対して、将来の予期せぬ需要減などにより実績が下振れするリスクへ対応するプロセスは、どちらの手法を採用した場合でも不可欠です。

割引率へのリスクプレミアム上乗せ

見積額である70百万円を直接減額調整せずそのまま使用する場合、使用価値の算定に用いる割引率において調整を行います。具体的には、自社の加重平均資本コスト(WACC)などに、当該資産グループ特有の乖離リスクに見合ったリスクプレミアム(例えば2.0%の上乗せ等)を加算した割引率を設定します〔適用指針 第39項(1)〕。

分子(キャッシュ・フロー) 70百万円(算出した見積額をそのまま使用)
分母(割引率) 資本コスト + リスクプレミアム

二重計上の防止と実務要件の充足

仮に、将来の悲観的な要素を考慮して見積額自体を70百万円から65百万円に切り下げるような調整(リスクの直接反映)を行った場合、割引率にもリスクプレミアムを上乗せしてしまうと、リスクが二重に反映され使用価値が不当に低く算定されてしまいます。これを防ぐため、必ず分子か分母の「どちらか一方のみ」でリスクを反映させる実務要件を満たす必要があります〔減損会計基準 注解(注6)〕。

不適切な処理(二重計上) 見積額の切り下げ + リスクプレミアム上乗せの割引率
適切な処理 見積額の切り下げ + 無リスクの割引率

将来キャッシュ・フロー見積りにおける実務上の留意点

将来キャッシュ・フローの見積りは、経営者の主観が入りやすい領域であるため、客観性と合理性を担保するためのプロセスが重要となります。

合理的な使用計画等の策定

将来キャッシュ・フローは、企業が承認した最新の合理的な事業計画や使用計画を基礎として見積る必要があります。最頻値法を採用して単一の金額を算出する場合でも、その金額が過去の実績や外部の市場予測と整合しているか、計画の実現可能性が十分に検討されているかが問われます〔適用指針 第39項〕。

見積りの基礎 経営陣により承認された最新の事業計画・使用計画
合理性の担保 過去の実績に基づく乖離分析や外部環境との整合性確認

監査に耐えうる客観的な証拠の保持

期待値法を採用して複数のシナリオを設定し、それぞれに10%や80%といった確率を付与する場合、なぜその確率分布を設定したのかという根拠資料を文書化しておく必要があります。外部監査において、将来キャッシュ・フローの見積り手法や乖離リスクの反映プロセス(割引率の算定根拠等)が適切であると証明できる客観的な証拠の保持が不可欠です〔減損会計意見書 四 2.(4)③〕。

確率設定の根拠 市場調査レポート、過去の類似設備の稼働実績データ等
文書化の対象 シナリオ設定の前提条件、割引率に含めたリスクプレミアムの算定根拠

参考文献

企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準

企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

まとめ

固定資産の減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りにおいては、単一の金額を予測する最頻値法と、複数シナリオを加重平均する期待値法のいずれかを実務上の負担や必要性に応じて選択することができます。重要なのは、どちらの手法を用いた場合でも、見積値から実績が乖離するリスクを、将来キャッシュ・フローの金額調整か割引率へのリスクプレミアム上乗せのいずれかの方法で、二重計上を避けつつ確実に反映させることです。客観的な事業計画に基づき、適切な算定プロセスを構築することが求められます。

将来キャッシュ・フロー見積り手法のよくある質問まとめ

Q.将来キャッシュ・フローの見積り手法にはどのようなものがありますか?

A.減損会計基準において、将来キャッシュ・フローの見積り手法には「最頻値法」と「期待値法」の2つが規定されており、企業はいずれかの方法を選択して適用することができます〔減損会計基準 二 4.(3)〕。

Q.最頻値法とはどのような手法ですか?

A.生起する可能性の最も高い単一の金額を、将来キャッシュ・フローの見積額として採用する実務上一般的な手法です〔適用指針 第39項〕。

Q.期待値法はどのような場合に有用ですか?

A.複数の生起し得る将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均して算定するため、設備の転用や売却など複数の選択肢を検討している場合に有用です〔適用指針 第120項〕。

Q.見積値と実績が乖離するリスクはどのように反映させますか?

A.将来キャッシュ・フローの見積額自体に保守的な調整を加えるか、あるいは割引率にリスクプレミアムを上乗せするかのいずれかの方法で必ず反映させなければなりません〔減損会計基準 注解(注6)〕。

Q.リスクを将来キャッシュ・フローに直接反映させた場合、割引率はどうなりますか?

A.リスクを二重に反映させることを防ぐため、割引率にはリスクプレミアムを含まない、貨幣の時間価値のみを反映した無リスクの割引率を使用する必要があります〔適用指針 第39項(2)〕。

Q.期待値法を用いればリスク反映の調整は不要ですか?

A.期待値法を用いてもシナリオのばらつきによるリスクは残存するため、分子(将来キャッシュ・フロー)又は分母(割引率)のいずれかに乖離リスクを反映させる手続きが必要です〔適用指針 設例5(2)〕。

事務所概要
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住所
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電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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