固定資産の減損会計において、対象となる資産をどのようにまとめるかという資産のグルーピングは、実務上最も重要な判断の1つです。原則として「他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」で行うとされていますが、多種多様な事業環境において一義的に決定することは困難です。そのため、企業が内部で行う管理会計上の区分や投資の意思決定単位を考慮して決定することが認められています(減損会計基準 二 6.(1))(適用指針 第7項)。本記事では、適用指針に示された設例に基づき、製造業から不動産業、連結決算特有のケースまで、実務における具体的なグルーピングの判断基準を詳しく解説いたします。
製造業における資産のグルーピング実務
製造業においては、管理会計上の区分が工場等の「機能別」や「製品別」に行われているケースが多く見られます。ここでは、それぞれの区分を基礎とした場合のグルーピングの考え方を解説します。
機能別区分を基礎とする場合
部品加工を行う工場、組み立てを行う工場、そして販売を行う営業部など、機能別に継続的な収支把握が行われている場合、単なる工場単位ではなくキャッシュ・イン・フローの相互補完性が重要になります。各工程が連続しており、最終製品を外部に販売して初めて独立したキャッシュ・フローが成立する場合、これらを切り離すことは適切ではありません。したがって、加工工場、組立工場、営業部を合わせた事業部全体が1つのグルーピング単位となります(適用指針 設例1-1(2))。一方で、加工工場が製造した部品を独立して外部市場へ販売できる場合は、当該工場単独で1つの単位となる可能性があります(適用指針 第70項(2)なお書き)(適用指針 設例1-1(2)なお書き)。
| 相互補完性の有無 | グルーピングの単位 |
|---|---|
| 工程が連続し外部販売で完結(相互補完的) | 加工工場+組立工場+営業部の事業部全体 |
| 加工部品を外部市場へ直接販売可能(独立) | 加工工場単独で1つの単位 |
製品別区分を基礎とする場合
製品群Aと製品群Bをそれぞれ別の工場で製造し、製品群単位で業績管理を行っている場合、両者の市場や性質が異なりキャッシュ・フローが相互補完的でなければ、それぞれの製造工場が独立したグルーピング単位となります(適用指針 設例1-2(2))。両製品に共通部品を供給する部品製造工場は、原則として共用資産として扱われます。ただし、各ラインへの供給量など将来キャッシュ・フローとの間に強い相関関係を持つ合理的な配賦基準が存在する場合は、当該部品製造工場の帳簿価額を各資産グループに配分して減損判定を行うことも認められます(適用指針 第49項)(適用指針 設例1-2(2))。
地域別区分と本社ビル等共用資産の用途転用
事業を展開する地域による区分や、物理的に1つの資産であっても用途が異なる場合のグルーピング手法について解説します。
地域別区分を基礎とする場合
同一の製品を製造・販売している企業であっても、事業展開する地域が地理的に離れており、物流が独立して地域別に管理会計が行われている場合があります。この場合、ある地域の事業を切り離しても他の地域から生ずるキャッシュ・フローに影響を及ぼさないため、全社一括ではなく各地域別の単位がグルーピングの単位として設定されます(適用指針 設例1-3(2))。
本社ビルの用途転用に伴う物理的分割
グルーピングの最小単位は、原則として小さくとも物理的な1つの資産とされています。しかし、従来は全社の共用資産として使用されていた本社ビルのフロアの30%を外部へ賃貸する用途へ転用した場合、例外的な処理が考えられます。賃貸部分と自社利用部分が長期継続的に区分される構造等であれば、物理的に1つの建物であっても分割し、賃貸部分のみを独立した新たなグルーピング単位として扱うことが実務上認められます(適用指針 設例1-3(2))。
| 本社ビルの用途区分 | 資産の取り扱いとグルーピング |
|---|---|
| 自社利用部分(例:70%) | 全社の共用資産として取り扱う |
| 外部賃貸部分(例:30%) | 独立した1つのグルーピング単位(賃貸等不動産) |
商業・サービス業の店舗営業と持株会社の扱い
店舗を展開する事業会社と、それを管理する純粋持株会社が存在する企業グループにおける、個別財務諸表と連結財務諸表での単位の違いを解説します。
個別財務諸表上の店舗と持株会社
事業会社においては、各店舗が独自の商圏を持ち、他店舗との間でキャッシュ・フローが相互補完的でない場合、原則として各店舗単位がグルーピングの単位となります(適用指針 設例1-4(2)①)。一方で純粋持株会社は、具体的な営業活動を行わず子会社からの役務収入等のみを得ているため、保有する本社ビル等の物理的な1つの資産が最小単位となり、結果として持株会社全体が1つのグルーピング単位として扱われます(適用指針 設例1-4(2)①)。
連結財務諸表上のグルーピング見直し
連結財務諸表上においても、原則として各事業会社の店舗単位がベースとなります。持株会社が保有する本社ビルは、連結グループ全体のキャッシュ・フロー生成に寄与する共用資産として取り扱われます。また、異なる子会社同士が1つの建物を賃貸借して共同店舗を運営している場合、連結上は内部の賃貸借取引が相殺消去されるため、子会社の枠を超えて連結上の1つの店舗としてグルーピングが見直されることになります(適用指針 設例1-4(2)②)。
不動産業における複合施設の相互補完性
不動産業において、同一敷地内に賃貸ビル、商業テナントビル、文化施設など用途の異なる複数の建物を開発し、各棟ごとに収支計算を行っているケースです。原則に従えば各棟が独立した収支単位となりますが、投資決定の段階から複合施設全体としての相乗効果が意図されている場合があります。単独では収益性が悪い文化施設であっても、それが商業テナントビルの集客効果を高めるなど、キャッシュ・イン・フローが強く相互補完的であると判断される場合、いずれかの棟を切り離すことは不適切です。このようなケースでは、各棟を切り離さず当該複合施設全体を1つのグルーピング単位とすることが妥当とされます(適用指針 設例1-5(2))。
連結特有のケースと減損損失の修正
企業集団において、部品製造子会社、組立親会社、販売子会社のように別々の法人格で機能分担している場合、連結決算の見地からグルーピングの単位が大きく見直されることがあります。
個別と連結の差異による単位の見直し
個別財務諸表上は、各法人における工場や事業所単位で継続的な収支把握が行われているため、それらが個別のグルーピング単位となり、工場単体で減損損失が認識されることがあります(適用指針 設例1-6(2)①)。しかし、連結財務諸表を作成するにあたっては、内部取引が相殺消去され、企業集団を単一の組織とみなして管理会計上の区分や投資の意思決定単位が再評価されます。その結果、製造から販売までの一連のバリューチェーンが連結上の製品群事業部という一体化された1つのグルーピング単位として見直される場合があります(適用指針 第10項)(適用指針 設例1-6(2)②)。
| 財務諸表の区分 | グルーピングのベースと単位 |
|---|---|
| 個別財務諸表 | 各法人の継続的な収支把握単位(各工場・事業所) |
| 連結財務諸表 | 内部取引消去後の意思決定単位(一連のバリューチェーン全体) |
個別財務諸表上の減損損失の戻入れ
連結の見地からグルーピング単位が見直された結果、より大きな単位として減損テストを行うことになります。この時、全体としての割引前将来キャッシュ・フローが合計帳簿価額を上回り、連結上は減損損失が計上されないケースが生じます。この場合、個別財務諸表において認識された工場単体の減損損失は、連結財務諸表を作成する過程の連結修正仕訳において、減損損失の対象外として全額が取り消され(戻し入れられ)ることになります(適用指針 第75項なお書き)(適用指針 設例1-6(2)②)。
参考文献
企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正
企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針
まとめ
減損会計における資産のグルーピングは、すべての資産を個別に評価することが実務上困難であるという理論的背景に基づいています。企業ごとに事業モデルや組織構造は多様であるため、画一的な基準ではなく、企業自身の管理会計上の区分や投資の意思決定単位を尊重することが最も合理的とされています(適用指針 第7項)。また、連結財務諸表においては「単一体企業概念」に基づき、真のキャッシュ・フローを生み出す外部顧客との取引を基準にグルーピングが再構成されます(適用指針 第75項)。実務担当者は、自社の経営実態や相互補完性の有無を慎重に見極め、適用指針の設例に沿った論理的なグルーピング方針を構築することが求められます。
減損会計のグルーピングに関するよくある質問まとめ
Q.資産のグルーピングの最小単位は何ですか?
A.原則として、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います(減損会計基準 二 6.(1))。
Q.製造業で複数工場が連続した工程を持つ場合、グルーピングはどうなりますか?
A.各工程が連続し、最終製品を外部販売して初めて独立したキャッシュ・フローが成立するなど相互補完的である場合、関連する工場や営業部を合わせた事業部全体が1つの単位となります(適用指針 設例1-1(2))。
Q.本社ビルの一部を賃貸に転用した場合、グルーピングは分割できますか?
A.物理的に1つの建物であっても、賃貸部分と自社利用部分が長期継続的に区分される構造等であれば、賃貸部分を独立した新たなグルーピング単位として分割することが認められます(適用指針 設例1-3(2))。
Q.個別財務諸表と連結財務諸表でグルーピングの単位は変わりますか?
A.変わる場合があります。連結上は内部取引が相殺消去され、企業集団を単一の組織とみなして意思決定単位が再評価されるため、より大きな事業部単位等に見直されることがあります(適用指針 第10項)。
Q.不動産業で収益性の低い文化施設を併設する場合、単独で減損判定しますか?
A.文化施設が商業施設の集客効果を高めるなど、キャッシュ・フローが強く相互補完的であり複合施設全体として投資回収を意図している場合は、施設全体を1つの単位とします(適用指針 設例1-5(2))。
Q.個別財務諸表で計上した減損損失が連結上で取り消されることはありますか?
A.あります。連結上のより大きなグルーピング単位で減損判定を行った結果、減損が不要となった場合、個別上の減損損失は連結修正仕訳で全額取り消されます(適用指針 第75項なお書き)。