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減損会計における割引率の決定方法と使用価値の算定実務

2026-02-08
目次

企業会計において、固定資産の減損処理を行う際、使用価値の算定に用いる割引率の決定は極めて重要なプロセスとなります。割引率の設定を誤ると、減損損失の測定額が大きく変動し、財務諸表に重大な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、「固定資産の減損に係る会計基準」や「適用指針」に基づき、税引前利率の適用原則、リスクの反映方法、加重平均資本コスト(WACC)を用いた具体的な算定アプローチなどを詳細に解説いたします。

割引率の基本原則と税引前利率の適用

貨幣の時間価値と税引前利率の原則

減損会計において、使用価値を算定するためには、見積もられた将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く必要があります。この際、最も重要な原則は、貨幣の時間価値を反映した税引前の利率を使用しなければならないという点です。これは、将来キャッシュ・フローの見積りが利息の支払額や法人税等の支払額を含まない税引前の数値で行われることに整合させるためです(減損会計基準 二 5.、減損会計意見書 四 2.(5)、適用指針 第43項)。

測定時点の割引率と単一・複数割引率の選択

使用価値の算定に用いる割引率は、過去の取得時のレートではなく、原則として減損損失の測定時点の割引率を用います。翌期以降の会計期間において一律に固定されるものではありません(適用指針 第43項)。実務上は、見積期間を通じて単一の割引率を使用することが一般的ですが、期間ごとにリスクや貨幣の時間価値が異なることを合理的に説明できる場合は、異なる期間について異なる割引率を見積ることも認められています(適用指針 第44項)。

将来キャッシュ・フローの乖離リスクの反映方法

リスクの反映アプローチ(キャッシュ・フローか割引率か)

将来キャッシュ・フローの予測には常に不確実性が伴います。見積値から実績が乖離するリスクについては、以下の表の通り、いずれかの方法で反映させることが求められます(減損会計意見書 四 2.(5))。

反映対象 具体的な反映方法
将来キャッシュ・フロー 複数のシナリオに基づく確率加重平均等を用いて見積額を調整する
割引率 無リスクの割引率にリスクプレミアムを上乗せし、高めの割引率を設定する

二重計上の防止と無リスク割引率の適用

将来キャッシュ・フローの見積り自体に乖離リスクが反映されていない場合、割引率は貨幣の時間価値と当該リスクの両方を反映した高めの利率にしなければなりません(減損会計基準 二 5.、減損会計基準 注解(注6)、適用指針 第45項)。一方で、将来キャッシュ・フローの見積りにリスクが完全に反映されている場合は、リスクの二重計上を防ぐため、割引率には貨幣の時間価値のみを反映した無リスクの割引率(国債の利回りなど)を使用します(適用指針 第46項)。

割引率を決定するための4つのアプローチ

実務で用いられる割引率の指標

企業が実務において割引率を設定する際は、以下の4つの指標、またはこれらを総合的に勘案したものを用います(適用指針 第45項、第126項)。

割引率の指標 概要
企業内ハードル・レート等 内部管理目的の経営資料等に基づく、企業が用いる目標投資収益率など
加重平均資本コスト(WACC) 借入資本コストと自己資本コストを加重平均した企業に要求される資本コスト
市場平均的な収益率 類似資産に固有のリスクを反映した、外部データから得られる期待利回り
ノンリコース・ローンの利率 当該資産のみを裏付けとして資金調達を行ったと仮定した場合の適用利率

連結財務諸表における割引率の取扱いと見直し

資産グルーピングの変更に伴う割引率の再評価

連結財務諸表の作成にあたり、連結の見地から個別財務諸表で用いられた資産のグルーピング単位が見直される場合があります。例えば、親会社と子会社の工場を一つのグループに統合するケースです(適用指針 第10項)。このようにグルーピングが見直された場合、使用価値の算定に用いる割引率についても、新たな資産グループのリスク等を反映して原則として見直す必要があります(適用指針 第47項)。

割引率決定に関する背景と結論の根拠

追加借入利子率の制限と実務的配慮

割引率を算定する際、追加借入利子率のみを割引率とすることは原則として認められません。借入資本比率が高い企業において追加借入利子率のみを用いると、自己資本に対するリスクプレミアムが無視され、割引率が不当に低くなり、結果として使用価値が過大に算定されてしまうためです(適用指針 第127項)。

また、連結財務諸表における割引率の見直しについては、実務上の負担への配慮が存在します。個別財務諸表で親会社の資本コストを用いている場合、連結財務諸表においても明らかに不合理でない限り、引き続き同じ資本コストを割引率として用いることが許容されています(適用指針 第128項)。

実務ケーススタディ:製造設備の使用価値算定

WACCを用いた割引率の具体的な算定手順

上場企業が減損判定テストにより回収可能価額を算定するケースを想定します。将来キャッシュ・フロー(最頻値)に需要変動リスクが反映されていない場合、割引率にリスクを反映させるため、加重平均資本コスト(WACC)を基礎として算定します(適用指針 第45項(2))。

算定ステップ 具体例(税引前WACCの算出)
自己資本コストの算定と税引前変換 CAPMで算出した6.4%を実効税率30%で割り戻し、税引前9.14%とする
加重平均による割引率の決定 負債40%(金利3.0%)と自己資本60%(9.14%)で加重平均し、税引前WACC 6.68%を算出

算出した税引前WACC(6.68%)に加え、社内の内部ハードル・レート(税引前7.0%)等も総合的に勘案し、最終的な割引率を保守的に7.0%と決定します(適用指針 第126項、設例6)。この割引率を用いて将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引き、使用価値を測定します。

参考文献

企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準

企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

まとめ

減損会計における使用価値の算定では、将来キャッシュ・フローと整合する税引前の割引率を用いることが大原則です。また、割引率は減損損失の測定時点の市場金利やリスクを反映したものでなければなりません。実務においては、WACCや企業内ハードル・レートなどを活用し、将来キャッシュ・フローの乖離リスクを二重計上しないよう適切に調整を行うことが求められます。会計基準や適用指針の要件を正確に理解し、合理的な見積りを行うことが、適正な財務諸表作成の鍵となります。

減損会計の割引率に関するよくある質問まとめ

Q.使用価値の算定に用いる割引率は税引前と税引後のどちらを使用すべきですか?

A.将来キャッシュ・フローの見積りが利息や法人税等の支払額を含まない税引前の数値で行われるため、割引率も貨幣の時間価値を反映した「税引前の利率」を使用しなければなりません(減損会計基準 二 5.、適用指針 第43項)。

Q.割引率はいつの時点のものを適用すべきですか?

A.原則として、過去の取得時ではなく「減損損失の測定時点の割引率」を用います。翌期以降に一律に固定されるものではありません(適用指針 第43項)。

Q.将来キャッシュ・フローの見積りと割引率のどちらにリスクを反映させるべきですか?

A.見積値から実績が乖離するリスクは、将来キャッシュ・フローの見積りに反映させるか、割引率にリスクプレミアムを上乗せして反映させるかのいずれかの方法をとります。二重計上は避ける必要があります(減損会計意見書 四 2.(5)、適用指針 第45項・第46項)。

Q.割引率を決定する際、どのような指標を用いればよいですか?

A.企業内ハードル・レート、加重平均資本コスト(WACC)、市場平均的な収益率、ノンリコース・ローンの利率の4つの指標、またはこれらを総合的に勘案したものを用います(適用指針 第45項)。

Q.追加借入利子率のみを割引率として使用することは可能ですか?

A.原則として認められません。自己資本に対するリスクプレミアムが無視され、割引率が著しく低くなることで使用価値が過大に算定されるのを防ぐためです(適用指針 第127項)。

Q.連結財務諸表で資産のグルーピングを見直した場合、割引率も変更する必要がありますか?

A.グルーピングが見直された場合、原則として新たな資産グループのリスク等を反映して割引率も見直す必要があります。ただし、親会社の資本コストを継続使用することが明らかに不合理でない場合は許容されます(適用指針 第47項、第128項)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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