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減損の兆候とは?把握の実務的タイミングと4つの具体的事象を解説

2026-02-02
目次

固定資産の減損会計において、実務上最初に直面するハードルが「減損の兆候の把握」です。本記事では、「固定資産の減損に係る会計基準」等に基づき、兆候を把握する全体像や実務的なタイミング、該当する4つの具体的事象について詳細に解説いたします。

減損の兆候の把握の全体像と実務的タイミング

減損会計の手続きにおいて、兆候の把握は実務的な負担を考慮した重要なファーストステップとなります。ここでは、その全体像と把握すべきタイミングについて解説します。

すべての固定資産で毎期判定が必要か

固定資産の減損会計において、対象となるすべての固定資産に対して、毎期末に将来キャッシュ・フローを見積もり、減損損失を認識するかどうかの判定を行うことは要求されていません。企業はまず、資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象、すなわち「減損の兆候」が存在するかどうかを把握します。この兆候が存在する場合にのみ、実際の判定ステップへと進むことになります(減損会計基準 二 1.、減損会計意見書 四 2.(1))。

実務的に入手可能なタイミングと利用可能な情報

減損の兆候の識別は、決算期末にのみ特別な調査を実施して行うものではありません。日常の企業活動において、実務的に入手可能なタイミングで、利用可能な情報に基づいて識別することが求められます(適用指針 第11項、第76項)。

情報の種類 具体例
企業内部の情報 内部管理目的の損益報告書(月次決算等)、事業再編等に関する経営計画
企業外部の要因に関する情報 経営環境の悪化、資産の市場価格の下落

これらの内部情報や外部情報を基礎として、兆候の有無を日常的に把握しておくことが実務上重要となります(減損会計基準 二 1.(1))。

減損の兆候となる4つの具体的事象

会計基準では、減損の兆候となる事象として主に4つのパターンが例示されています。それぞれの具体的な判断基準を見ていきましょう。

営業活動から生ずる損益等の継続的なマイナス

資産または資産グループが使用されている営業活動において、損益またはキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているか、継続してマイナスとなる見込みである場合は、減損の兆候に該当します(減損会計基準 二 1.①)。

要件 具体的な判断基準
継続してマイナス おおむね過去2期がマイナスであったこと(当期の見込みが明らかにプラスの場合は該当せず)
損益の把握単位 企業が行う管理会計上の損益区分に基づく

なお、事業の立ち上げ時など、事業計画において当初からマイナスとなることが予定されている場合は、実際のマイナス額が計画より著しく下方に乖離していない限り、兆候には該当しません(適用指針 第12項(4)、第81項)。

回収可能価額を著しく低下させる変化

資産の使用範囲や方法に変化が生じたか、生ずる見込みである場合です(減損会計基準 二 1.②)。

変化の具体例 詳細内容
事業の廃止・再編成 事業規模の大幅な縮小等(適用指針 第13項(1)、第82項)
早期の除却・売却 当初の予定よりも著しく早期の処分(適用指針 第13項(2)、第83項)
用途変更・遊休化 収益性が大きく変わる異なる用途への転用、将来の用途未定の遊休状態への移行(適用指針 第13項(3)(4)、第84項、第85項)
稼働率低下・機能的減価 著しく低下した稼働率の回復見込みなし、著しい陳腐化等(適用指針 第13項(5)(6)、第86項)

経営環境の著しい悪化

当該資産が使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化した場合、または悪化する見込みである場合です(減損会計基準 二 1.③)。

悪化の要因 具体例
市場環境の悪化 材料価格の高騰、製品・販売価格や賃貸料水準の大幅な下落、市場の著しい縮小(適用指針 第14項(1))
技術的・法律的環境の悪化 技術革新による陳腐化、法改正や規制強化(適用指針 第14項(2)(3))

これらは画一的な基準ではなく、個々の企業の状況に応じて具体的に判断されます(適用指針 第88項)。

市場価格の著しい下落

資産または資産グループの市場価格が著しく下落した場合です(減損会計基準 二 1.④)。

指標 具体的な目安
下落率の目安 市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合(適用指針 第15項、第89項)
市場価格の代替 市場価格が観察できない場合、路線価や公示価格などの評価額を用いることが可能(適用指針 第15項、第90項)

共用資産及びのれんにおける兆候の把握

単独でキャッシュ・フローを生み出しにくい資産群については、兆候の把握方法に特別なルールが設けられています。

共用資産の兆候把握ルール

本社ビルなどの共用資産については、単独での判定とより大きな単位での判定を組み合わせて行います。

判定対象 兆候の認定要件
より大きな単位 共用資産を含むより大きな単位において、損益のマイナスや経営環境の悪化などの事象がある場合
共用資産単独 共用資産そのものに早期処分や用途変更、市場価格の著しい下落(50%程度以上)がある場合

これらの事象が確認された場合に、共用資産に減損の兆候があるとみなされます(適用指針 第16項(1)(2)、第92項)。

のれんの兆候把握ルール

のれんはそれ自体で独立したキャッシュ・フローを生み出さないため、単独で兆候があるかどうかを判断することは原則として行われません。したがって、のれんを含むより大きな単位において、赤字の継続や経営環境の悪化といった事象がある場合に、のれんに減損の兆候があるものとして扱われます(適用指針 第17項、第95項)。

背景と結論の根拠(BC)

なぜこのような兆候の把握というステップが設けられているのか、その背景となる結論の根拠を解説します。

ステップ・アプローチを採用した実務的根拠

すべての資産について直接減損損失の判定を行わず、「減損の兆候の把握」という事前段階を設けた根拠は、企業の実務負担の軽減にあります。対象となるすべての固定資産について、毎期精緻な将来キャッシュ・フローを見積もることは過大な負担となるおそれがあるため、明らかに減損が生じている可能性のある事象が存在する場合に限定するアプローチが採用されました(減損会計意見書 四 2.(1)、適用指針 第76項)。

兆候の目安と個別判断の必要性

減損の兆候として示されている事象はあくまで例示であり、限定列挙ではありません。また、経営環境の悪化の程度などは画一的に数値化できないため、個々の企業における判断が必要です(適用指針 第76項、第77項)。しかしながら、「過去2期がマイナス」「帳簿価額から50%程度以上の下落」といった客観的な指針を設けることが実務上役立つことから、必要と考えられる範囲において適用指針で提示されています(適用指針 第77項、第79項、第89項)。

実務ケーススタディ:小売チェーンの事例

実際のビジネスにおいて、これらの規定がどのように適用されるかを具体的なケーススタディを通じて確認します。

日常的な兆候の把握

全国にアパレル店舗を展開する企業では、各店舗を最小の資産グループとして管理しています。経理部門は、四半期決算に限らず、毎月の店舗別月次損益報告書を確認しています(適用指針 第11項、第76項)。ある店舗が競合の進出(経営環境の著しい悪化)により売上が激減し、過去2事業年度にわたって営業赤字(管理会計上の損益マイナス)であり、当期も回復が見込めない場合、この実務的に入手可能な月次情報に基づき、明確な「減損の兆候」を識別します(減損会計基準 二 1.①、適用指針 第12項(1)(2)、第14項(1))。

意思決定タイミングでの兆候識別

兆候を把握した後、企業は帳簿価額と割引前将来キャッシュ・フローの総額を比較する「減損損失を認識するかどうかの判定」を実施します。もし、赤字の店舗について取締役会等で「当初の予定より5年早く閉鎖する」と決定した場合、その意思決定のタイミングで「回収可能価額を著しく低下させる変化」という別の兆候に直ちに該当することになります(適用指針 第13項(1)(2)、第82項、第83項)。

 

参考文献

企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準

企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

まとめ

固定資産の減損会計において、減損の兆候の把握は実務負担を軽減するための重要なファーストステップです。すべての資産を毎期テストするのではなく、日常の業務で入手可能な月次損益や市場データに基づき、過去2期の赤字や市場価格の50%以上の下落といった具体的な目安を用いて効率的に兆候を識別することが求められます。企業内部の情報伝達フローを整備し、経営環境の変化や重要な意思決定のタイミングを逃さずに兆候を把握する体制を構築することが重要です。

減損の兆候に関するよくある質問まとめ

Q.減損の兆候は決算期末にのみ調査すればよいですか?

A.決算期末にのみ特別な調査を行うのではなく、日常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングで、利用可能な情報に基づいて識別することが求められます(適用指針 第11項、第76項)。

Q.「継続してマイナス」とは具体的にどの程度の期間を指しますか?

A.おおむね過去2期がマイナスであったことを指します。ただし、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は兆候には該当しません(適用指針 第12項(2)、第79項)。

Q.事業計画で当初から赤字が予定されている場合も減損の兆候になりますか?

A.事業の立ち上げ時など、当初からマイナスとなることが予定されている場合は、実際のマイナス額が計画より著しく下方に乖離していない限り、兆候には該当しません(適用指針 第12項(4)、第81項)。

Q.市場価格の著しい下落とは、具体的にどの程度の下落を指しますか?

A.実務上の目安として、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当します(適用指針 第15項、第89項)。

Q.市場価格が観察できない不動産の場合、どのように兆候を把握しますか?

A.一定の評価額(路線価や公示価格等)が市場価格を反映していると考えられる場合には、その評価額を用いて市場価格の著しい下落という兆候を把握することが認められます(適用指針 第15項、第90項)。

Q.のれん単独で減損の兆候を判定することはありますか?

A.のれんはそれ自体で独立したキャッシュ・フローを生み出さないため、単独での判断は原則行わず、のれんを含むより大きな単位において事象がある場合に兆候があるものとして扱います(適用指針 第17項、第95項)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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