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年次決算と月次決算の違いとは?必要な作業を徹底比較解説

2025-09-09
目次

企業の経営成績と財政状態を正確に把握するために不可欠な決算業務には、年に一度行う「年次決算」と、毎月行う「月次決算」があります。これらは目的や法的拘束力、作業内容において大きく異なります。本記事では、年次決算月次決算の具体的な作業内容を比較し、それぞれの役割と効率的な進め方について詳しく解説いたします。

年次決算と月次決算の基本的な違い

年次決算と月次決算は、その目的、法的根拠、報告対象者が明確に異なります。年次決算は、一年間の企業活動の最終的な成果を外部の利害関係者に報告するための法的に義務付けられた手続きです。一方、月次決算は、経営陣が迅速に経営状況を把握し、タイムリーな意思決定を行うための内部管理を目的とした任意のプロセスです。両者の違いを理解することは、経理業務の全体像を把握する上で極めて重要です。

目的の違い

年次決算と月次決算の最も大きな違いは、その目的にあります。年次決算は主に外部への報告を目的とし、月次決算は内部での経営管理を目的としています。

決算の種類 主な目的
年次決算 株主や投資家、金融機関などの外部利害関係者への財務状況報告、および法人税などの税務申告。一年間の経営成績と期末時点の財政状態を確定させ、公的に開示します。
月次決算 経営陣への迅速な業績報告。月ごとの業績をタイムリーに把握し、経営判断の材料として活用します。予算と実績の差異分析や、問題点の早期発見を目的とします。

法的拘束力と報告対象者

法的義務の有無も両者を分ける重要なポイントです。年次決算は法律で定められた義務ですが、月次決算に法的な強制力はありません。

  • 年次決算会社法法人税法、金融商品取引法(上場企業の場合)により、すべての株式会社に義務付けられています。報告対象者は株主、債権者、投資家、税務署など広範にわたります。
  • 月次決算:法的な実施義務はなく、企業が任意で行います。主な報告対象者は、社長や役員などの経営陣です。ただし、金融機関からの融資審査などで提出を求められる場合もあります。

作業期間と頻度

決算作業に要する期間と実施頻度も大きく異なります。年次決算は年に一度の大規模な作業であり、月次決算は毎月、迅速に行われます。

  • 年次決算:年に1回、事業年度終了後に実施します。法人税の申告・納付期限である事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に完了させる必要があり、集中的な作業が求められます。
  • 月次決算:毎月実施し、通常は翌月の5営業日から10営業日以内に完了させることを目指します。経営判断のスピードに直結するため、迅速性が重視されます。

月次決算の主な作業内容

月次決算は、日々の経理業務を月単位で締め、経営状況を速やかに可視化するためのプロセスです。正確かつ迅速な処理が求められ、年次決算の基礎を築く重要な業務です。

日常業務の締めと残高確認

月の取引記録を正確に締め、帳簿と実際の残高が一致しているかを確認する基本的な作業です。具体的には、現金・預金口座の帳簿残高と実際の残高を照合する残高照合や、売掛金・買掛金の元帳残高と得意先・仕入先ごとの残高を確認する作業が含まれます。

月次特有の整理仕訳

月単位で正確な損益を把握するため、当月の費用と収益を正しく計上する整理仕訳を行います。これには、用途が未確定な支出を精算する仮払金の整理や、当月発生したものの支払いが翌月以降になる費用を計上する未払費用の計上、前払いした費用のうち当月分を費用化する前払費用の振替などが含まれます。

試算表の作成と分析

すべての仕訳が完了したら、月次試算表を作成します。この試算表をもとに、予算と実績を比較する予実管理や、前年同月の実績と比較分析を行います。これらの分析結果をまとめた報告書を作成し、経営会議などで報告することで、次の経営戦略の策定に役立てます。

年次決算で追加される特有の作業

年次決算では、12ヶ月分の月次決算の積み重ねに加え、年度末にのみ実施する専門的かつ詳細な作業が多数追加されます。これらは決算整理仕訳と呼ばれ、企業の財政状態と経営成績を最終的に確定させるための重要な手続きです。

実地棚卸と資産評価

期末時点での資産価値を正確に確定させるため、物理的な確認や評価を行います。倉庫などにある商品や製品、原材料の在庫数量を実際に数える実地棚卸を行い、帳簿上の在庫数量との差異を確認・調整します。また、土地や建物といった固定資産について、収益性の低下などにより投資額の回収が見込めない場合に損失を計上する減損処理の要否を検討します。

引当金の計上

将来発生する可能性が高い費用や損失に備え、当期の費用としてあらかじめ計上する引当金計算を行います。具体的には、翌期に支給する従業員への賞与のうち当期に負担すべき額を計算する賞与引当金、将来の退職金支払いに備える退職給付引当金、回収不能が見込まれる売上債権額を見積もる貸倒引当金などがあります。

税効果会計の適用

会計上の利益と、税法に基づいて計算される課税所得の間に生じる一時的な差異を調整する会計処理です。この手続きにより、法人税等の税金費用を適切に期間配分し、貸借対照表に繰延税金資産または繰延税金負債を計上します。これにより、企業の財政状態をより正確に表示することができます。

勘定科目の整理・確定

一年間のすべての取引記録を見直し、最終的な勘定科目を確定させます。月次決算では概算で処理していた項目を確定させたり、仮勘定を精算したりと、すべての勘定残高を締め切ります。この作業を経て、最終的な財務諸表が作成されます。

作成する計算書類の違い

年次決算と月次決算では、作成が義務付けられている書類の種類と詳細度が異なります。年次決算では法的に定められた一連の計算書類を作成しますが、月次決算では内部報告用の簡略化された書類が中心となります。

決算の種類 主な作成書類
年次決算
  • 貸借対照表(B/S)
  • 損益計算書(P/L)
  • キャッシュ・フロー計算書(C/F)
  • 株主資本等変動計算書(S/S)
  • 個別注記表
  • 事業報告書、附属明細書 など

これらは「財務三表」を含む、会社法などで定められた正式な計算書類(財務諸表)一式です。

月次決算
  • 月次損益計算書
  • 月次貸借対照表
  • (必要に応じて)月次キャッシュ・フロー計算書(簡略版)
  • 予算実績対比表

主に経営管理を目的とするため、損益計算書が特に重視される傾向にあります。

月次決算が年次決算を効率化する

精度の高い月次決算を毎月着実に実施することは、年に一度の年次決算業務の負担を大幅に軽減し、その質を高めることに直結します。月次決算は、単なる月ごとの業績把握に留まらず、年次決算を円滑に進めるための重要な布石となります。

早期の問題発見と修正

月次決算のプロセスで毎月勘定残高の照合や取引内容の確認を行うことで、記帳ミスや計上漏れといった問題を早期に発見し、修正することができます。これにより、期末に一年分の膨大な取引記録を一度に確認する手間が省け、年次決算時の作業負荷を大幅に削減できます。

決算予測と税金対策

月次決算のデータを積み上げることで、年間の利益やキャッシュフローの着地見込みを高い精度で予測することが可能になります。利益が想定を上回る場合には、期末前に設備投資や修繕費の支出といった計画的な節税対策を検討する時間的余裕が生まれます。また、納税額を早期に予測できるため、納税資金の準備も計画的に進められます。

監査対応の円滑化

上場企業や大会社など、会計監査人による監査が義務付けられている企業にとって、整理された月次決算資料は極めて重要です。月ごとに取引の妥当性や会計処理の根拠が整理されているため、監査法人からの質問に対して迅速かつ的確に回答できます。これにより、監査がスムーズに進行し、決算発表までのスケジュール遵守に貢献します。

まとめ

年次決算月次決算は、目的、法的拘束力、作業内容において明確な違いがありますが、両者は密接に関連しています。年次決算が企業の「年間の成績表」であるならば、月次決算は「毎月の健康診断」に例えられます。日々の健康管理が重要であるように、正確な月次決算を継続的に行うことが、質の高い年次決算と、迅速で的確な経営判断の基盤となります。月次決算の精度を高め、早期化を図ることは、経理部門の業務効率化だけでなく、企業全体の競争力強化にも繋がる重要な取り組みと言えるでしょう。

月次決算は法律で定められたものではないため、直接的に規定する会計基準はありません。しかし、その会計処理や開示の考え方については、上場企業に適用される中間決算や四半期決算の基準が参考になります。詳細は以下の公的機関の情報を参照してください。

参考文献

年次決算と月次決算の違いに関するよくある質問まとめ

Q. 年次決算と月次決算の最も大きな違いは何ですか?

A. 年次決算は法律で定められた正式な手続きで、税金の計算や株主への報告が目的です。一方、月次決算は社内向けの任意の手続きで、経営状況をタイムリーに把握することが目的です。

Q. 年次決算でしか行わない特別な作業はありますか?

A. はい、あります。具体的には、決算整理仕訳(在庫の評価、減価償却費の計上など)、税効果会計の適用、法人税などの税金計算、注記表の作成、外部監査への対応などが年次決算特有の作業です。

Q. 決算整理仕訳はなぜ年次決算で行うのですか?

A. 決算整理仕訳は、期中の取引記録を期末時点の財産状況や経営成績に正しく合わせるために行います。正確な財務諸表を作成し、適正な税額を計算するために、年に一度の年次決算でまとめて実施するのが一般的です。

Q. 年次決算はなぜ月次決算より時間がかかるのですか?

A. 年次決算は、月次決算にはない税金計算や開示資料の作成、監査対応など、より多くの作業が必要になるためです。また、1年分の取引を最終的に確定させるため、より慎重で網羅的な確認が求められることも理由の一つです。

Q. 月次決算をしっかり行うと、年次決算は楽になりますか?

A. はい、非常に楽になります。毎月正確な月次決算を行っておくことで、勘定科目の残高が検証済みとなり、年次決算での大幅な修正や確認作業が減ります。これにより、年次決算をスムーズかつ迅速に進めることができます。

Q. 年次決算の目的と月次決算の目的を教えてください。

A. 年次決算の主な目的は、利害関係者(株主、税務署、金融機関など)への報告と納税です。一方、月次決算の目的は、経営陣が自社の経営状況を迅速に把握し、タイムリーな意思決定に役立てることです。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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