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使用価値と将来キャッシュ・フローの算定原則:減損会計の基本

2026-02-07
目次

減損会計における回収可能価額の算定プロセスにおいて、使用価値と将来キャッシュ・フローの算定は極めて重要な実務課題です。本記事では、固定資産の減損に係る会計基準等に基づき、使用価値の意義から将来キャッシュ・フローの見積り原則、割引率の設定方法、そして具体的な実務ケーススタディまでを詳細に解説いたします。

使用価値の意義と算定の基本原則

固定資産の減損損失を測定する際、帳簿価額を切り下げる目標となる回収可能価額は、「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額と定義されています(減損会計基準 注解(注1)1.)。

このうち使用価値とは、資産または資産グループの継続的使用と、使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値を指します(減損会計基準 注解(注1)4.、適用指針 第31項)。具体的には、継続的使用によって毎期生じる将来キャッシュ・フロー(イン・フローからアウト・フローを控除した純額)と、見積期間終了時点での処分による正味売却価額等を見積もり、適切な割引率を用いて現在価値に割り引くことで算定します。外貨建てで見積もられる場合は、外貨建てのまま将来キャッシュ・フローを見積もり、その通貨の割引率で現在価値に割り引いた後、減損損失の測定時の為替相場で円換算する手順を踏みます(適用指針 第35項、第38項)。

項目 内容
回収可能価額 正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額
外貨建ての取扱い 外貨建てで現在価値を算定後、測定時の為替相場で円換算

将来キャッシュ・フローの見積りの原則

使用価値の算定基礎となる将来キャッシュ・フローの見積りは、企業に固有の事情を反映した「合理的で説明可能な仮定および予測」に基づいて厳格に行う必要があります(減損会計基準 二 4.(1))。

見積りの基礎となる情報

将来キャッシュ・フローは、取締役会等の承認を得た中期経営計画等の内部情報を基礎とし、経営環境などの外部要因と整合的に修正して見積もります。中長期計画が存在しない場合や計画期間を超える期間(例えば4年目以降)については、過去の実績やこれまでの趨勢を踏まえた0%やマイナス成長を含む成長率を仮定して見積もることが実務上認められています(適用指針 第36項)。

見積りの対象期間 適用される情報
計画期間内(通常3〜5年) 取締役会等で承認された中長期計画等の内部情報
計画期間超・計画未策定 過去の実績や趨勢を踏まえた成長率(ゼロやマイナス含む)

設備投資や事業再編の見込みの取扱い

見積りは、資産または資産グループの現在の使用状況および合理的な使用計画等を考慮して実施します。したがって、計画されていない将来の設備の増強や事業の再編による将来キャッシュ・フローの増減は含めてはなりません(減損会計基準 二 4.(2)、減損会計基準 注解(注5))。一方で、現在の価値を維持するための定期的なメンテナンスや部品交換等に関する合理的な設備投資のキャッシュ・アウト・フローは、見積りに含める必要があります(適用指針 第38項)。

設備投資等の種類 見積りへの算入可否
未計画の設備増強・事業再編 算入不可(将来キャッシュ・フローから除外する)
現状維持のための定期メンテナンス 算入必須(キャッシュ・アウト・フローに含める)

見積りの方法(最頻値と期待値)

将来キャッシュ・フローの見積り方法には、生起する可能性の最も高い単一の金額を見積る最頻値による方法と、生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額を見積る期待値による方法のいずれかを用いることが認められています(減損会計基準 二 4.(3)、適用指針 第39項)。

見積り手法 手法の概要
最頻値による方法 最も発生可能性の高い単一のシナリオに基づく金額を見積る
期待値による方法 複数のシナリオをそれぞれの発生確率で加重平均した金額を見積る

間接費と財務・税務費用の取扱い

本社費等の間接的に生ずる支出は、売上高比率や従業員比率などの合理的な基準により資産グループに配分し、将来キャッシュ・フローから控除します(適用指針 第40項)。一方で、借入金に係る支払利息などの財務費用や法人税等の支払額および還付額は、固定資産の使用から直接生じるものではないため、将来キャッシュ・フローの見積りには一切含めません(減損会計基準 二 4.(5)、適用指針 第41項)。

費用の種類 将来キャッシュ・フローへの取扱い
本社費等の間接費 合理的な基準で配分し控除する
支払利息・法人税等 一切含めない(見積りから完全に除外する)

使用価値の算定に用いられる割引率の原則

将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引くための割引率は、貨幣の時間価値を反映した「税引前」の利率を使用しなければなりません。これは、将来キャッシュ・フローが税引前の数値で見積もられることに対応させるためです(減損会計基準 二 5.、適用指針 第43項)。

また、見積値から乖離するリスクについては、将来キャッシュ・フローの見積り自体に反映させるか、割引率にリスクプレミアムとして上乗せするかのいずれかが求められます。実務においては、当該資産に固有のリスクを反映した内部の収益率や、借入資本コストと自己資本コストの加重平均である資本コスト(WACC)などの指標を総合的に勘案して設定します(適用指針 第44項、第45項)。

割引率の設定指標 指標の具体例
内部の収益率 当該資産に固有のリスクを反映した内部経営資料に基づく収益率
資本コスト 借入資本コストと自己資本コストの加重平均(WACC)

背景と結論の根拠(BC)

会計基準において将来キャッシュ・フローの算定方法を画一的に規定していないのは、企業ごとの事業環境や資産の性質が千差万別であるためです。企業の固有事情を反映させるべく、経営計画や仮定に委ねつつ、実務上の留意点を示すにとどめています(減損会計意見書 四 2.(4)①)。

また、不確実性の予測において理論的に優れる「期待値法」だけでなく、実務負担を考慮して「最頻値法」も等しく容認されています(適用指針 第120項)。支払利息を除外する根拠は、資金調達手段の違い(借入金か自己資本か)によって資産の営業上の評価額が変動することを防ぐためです(適用指針 第122項)。

規定の背景 結論の根拠
算定方法の非画一化 企業ごとの事業環境や資産の性質の多様性を反映させるため
最頻値と期待値の併存 理論的優位性(期待値)と実務負担の軽減(最頻値)の両立

実務ケーススタディ

製造業における具体的な使用価値の厳密な算定プロセスを紹介します。減損の兆候がある工場について、取締役会で承認された今後3年間の中期経営計画を入手します(適用指針 第36項(1))。未確定の生産ライン拡張による増収見込みは除外し、現状維持のための機械の部品交換や修繕費はキャッシュ・アウト・フローに織り込みます(適用指針 第38項)。

本社部門の経費は売上高比率で工場に配分して控除し、支払利息や法人税は除外します(適用指針 第40項、第41項)。4年目以降は成長率ゼロと仮定し、残存使用年数までのキャッシュ・フローを最頻値で予測します。割引率については、税引前5.0%の加重平均資本コスト(WACC)に、下振れリスクを反映させた1.0%のリスクプレミアムを上乗せし、税引前6.0%の割引率を設定します。この割引率で現在価値を算出し、使用価値を決定します(減損会計基準 二 5.、適用指針 第45項)。

実務プロセスのステップ 具体的な処理内容
将来CFの見積り 中期経営計画を基礎とし、未確定の拡張投資や財務費用を除外
割引率の適用 WACC(税引前5.0%)にリスクプレミアム(1.0%)を加算し6.0%で割引

参考文献

企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準

企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

 

まとめ

固定資産の減損会計における回収可能価額、特に使用価値の算定は、将来キャッシュ・フローの精緻な見積りと適切な割引率の設定が不可欠です。未確定の設備投資の除外や、間接費の適切な配分、支払利息等の財務費用の除外といった実務上のルールを遵守することで、会計基準に準拠した客観的かつ合理的な減損損失の測定が可能となります。企業固有の事情を反映しつつ、監査に耐えうる説明可能な仮定に基づく算定プロセスを構築することが重要です。

減損会計の使用価値と将来キャッシュ・フローに関するよくある質問まとめ

Q. 回収可能価額とはどのように決定されますか?

A. 回収可能価額は、資産または資産グループの「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額として決定されます(減損会計基準 注解(注1)1.)。

Q. 将来キャッシュ・フローの見積りに将来の設備増強を含めることはできますか?

A. 計画されていない将来の設備の増強や事業の再編による将来キャッシュ・フローの増減は、見積りに含めてはなりません(減損会計基準 注解(注5))。

Q. 将来キャッシュ・フローの見積り期間が中期経営計画の期間を超える場合、どのように予測すればよいですか?

A. 中長期計画の期間を超える期間については、過去の実績やこれまでの趨勢を踏まえた一定の成長率(ゼロやマイナスを含む)を仮定して見積もることが認められています(適用指針 第36項)。

Q. 支払利息や法人税は将来キャッシュ・フローから控除しますか?

A. 借入金に係る支払利息などの財務費用や法人税等の支払額および還付額は、固定資産の使用から直接生じるものではないため、将来キャッシュ・フローの見積りには一切含めません(適用指針 第41項)。

Q. 将来キャッシュ・フローの見積りにはどのような手法が認められていますか?

A. 最も発生可能性の高い単一の金額を見積る「最頻値」による方法と、複数のシナリオを発生確率で加重平均する「期待値」による方法のいずれも認められています(適用指針 第39項)。

Q. 使用価値の算定に用いる割引率は税引前ですか、税引後ですか?

A. 将来キャッシュ・フローが税引前の数値で見積もられることに対応させるため、貨幣の時間価値を反映した「税引前」の利率を使用しなければなりません(適用指針 第43項)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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