企業が保有する有価証券のうち、売買目的や満期保有目的などに該当しない「その他有価証券」は、期末における評価方法や評価差額の処理において特有の会計基準が設けられています。本記事では、「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」等に基づき、その他有価証券の原則的な評価方法である時価評価の仕組みや、全部純資産直入法および部分純資産直入法の具体的な会計処理について、実務上のケーススタディを交えて詳細に解説いたします。
その他有価証券の定義と評価の基本原則
金融商品会計において、有価証券はその保有目的に応じて分類され、それぞれ異なる評価基準が適用されます。ここでは、その他有価証券の定義および期末評価の基本原則について解説します。
その他有価証券に分類される有価証券の範囲
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外のすべての有価証券を指します〔企業会計基準第10号 第18項〕。業務提携目的で長期保有する株式や、長期的な時価変動による利益獲得を目指す投資有価証券などが該当し、他の区分に分類できない場合の受け皿としての性質を持ちます〔移管指針第9号 第72項〕。
| 分類対象外の有価証券 | その他有価証券の具体例 |
|---|---|
| 売買目的、満期保有目的、子会社・関連会社株式 | 業務提携目的の株式、長期保有の投資信託など |
期末評価における時価主義の適用
その他有価証券の期末における貸借対照表価額は、原則として時価をもって評価することが義務付けられています〔企業会計基準第10号 第18項、移管指針第9号 第73項〕。これにより、企業の財政状態をより実態に近い形で投資者へ開示することが可能となります。
洗い替え方式による評価差額の処理
期末の時価評価によって生じた取得原価との差額(評価差額)は、洗い替え方式によって処理されます〔企業会計基準第10号 第18項、移管指針第9号 第73項、第80項〕。洗い替え方式とは、期末に時価評価を行った後、翌期首において帳簿価額を取得原価に戻す会計処理を指します。
評価差額の会計処理方法の選択
その他有価証券の時価評価に伴う評価差額の処理には、2つの方法が規定されており、企業はいずれかを選択適用します。
原則となる全部純資産直入法の仕組み
全部純資産直入法は、評価差益および評価差損の合計額を、当期の損益を経由せずに直接純資産の部に計上する方法です〔企業会計基準第10号 第18項(1)、移管指針第9号 第73項①〕。その他有価証券の評価差額処理において、原則としてこの方法が適用されます〔移管指針第9号 第73項〕。
例外的な部分純資産直入法の仕組み
部分純資産直入法は、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差益は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差損は当期の損失(投資有価証券評価損など)として損益計算書に計上する方法です〔企業会計基準第10号 第18項(2)、移管指針第9号 第73項②〕。この方法は、継続適用を条件として選択することが認められています〔移管指針第9号 第73項〕。
| 処理方法 | 評価差額の計上区分 |
|---|---|
| 全部純資産直入法 | 差益・差損ともに純資産の部へ計上 |
| 部分純資産直入法 | 差益は純資産の部、差損は当期の損失へ計上 |
税効果会計の適用とその他有価証券評価差額金
純資産の部に計上される評価差額には、必ず税効果会計を適用しなければなりません〔企業会計基準第10号 第18項、移管指針第9号 第73項〕。評価差額に対して法定実効税率(例:30%)を乗じた金額を繰延税金資産または繰延税金負債として計上し、残額を「その他有価証券評価差額金」として純資産の部に表示します〔移管指針第9号 第73項〕。
その他有価証券を時価評価し純資産直入する背景
なぜその他有価証券は時価評価され、かつその差額が損益ではなく純資産に直入されるのか、その結論の根拠を解説します。
時価情報の有用性と損益計上の見送り
その他有価証券の時価情報は投資者にとって有用であるため、貸借対照表価額は時価とされました〔企業会計基準第10号 第76項〕。一方で、業務提携目的など事業遂行上の制約から直ちに売却・換金できない要素も強いため、評価差額を直ちに当期の損益として処理することは不適切と判断されました〔企業会計基準第10号 第77項〕。
国際的な会計基準との整合性
国際的な会計基準においても、その他有価証券に類する金融資産の評価差額は、当期の損益とせず純資産の部に直接計上して包括利益とする手法が広く採用されており、これらとの整合性も考慮されています〔企業会計基準第10号 第78項〕。
保守主義の観点に基づく部分純資産直入法の容認
企業会計における保守主義の観点から、含み損を抱える銘柄の評価差額については損失として計上する実務慣行が存在しました。これを踏まえ、時価が取得原価を下回る場合に当期の損失とする部分純資産直入法の選択適用も認められることとなりました〔企業会計基準第10号 第80項〕。
実務ケーススタディ:全部純資産直入法
具体的な金額を用いて、全部純資産直入法を適用した場合の会計処理を解説します。前提として、取得原価1,000万円のX社株式(時価1,200万円)と、取得原価800万円のY社株式(時価700万円)を保有し、法定実効税率を30%とします。
複数銘柄の評価差額の相殺と税効果
全部純資産直入法では、全銘柄の評価差額を合算します。X社の評価益200万円とY社の評価損100万円を相殺し、合計差額はプラス100万円となります。この100万円に税率30%を乗じた30万円を繰延税金負債として計上し、残りの70万円を「その他有価証券評価差額金」として純資産に計上します〔企業会計基準第10号 第18項(1)、移管指針第9号 第73項〕。損益計算書への影響はありません。
| 勘定科目 | 金額(計算式) |
|---|---|
| 繰延税金負債 | 30万円(合計差額100万円×30%) |
| その他有価証券評価差額金 | 70万円(合計差額100万円-30万円) |
実務ケーススタディ:部分純資産直入法
続いて、同じ前提条件(X社株式:評価益200万円、Y社株式:評価損100万円、税率30%)で、部分純資産直入法を適用した場合の処理を解説します。
評価益と評価損の非対称な処理方法
部分純資産直入法では、銘柄ごとに処理が異なります。評価益200万円のX社株式については、税効果(60万円の繰延税金負債)を控除した140万円を純資産の部の「その他有価証券評価差額金」に計上します。一方、評価損100万円のY社株式については純資産に計上せず、「投資有価証券評価損」として全額を当期の損失に計上します〔企業会計基準第10号 第18項(2)、移管指針第9号 第73項〕。翌期首には、両銘柄とも洗い替え方式により取得原価に戻されます〔企業会計基準第10号 第18項、移管指針第9号 第80項〕。
| 対象銘柄 | 会計処理の対象科目 |
|---|---|
| X社株式(評価益200万円) | その他有価証券評価差額金(140万円)、繰延税金負債(60万円) |
| Y社株式(評価損100万円) | 投資有価証券評価損(100万円) |
まとめ
その他有価証券の評価は、原則として時価で行い、洗い替え方式を適用します。評価差額の処理には、全額を純資産に計上する全部純資産直入法と、評価損のみを当期損失とする部分純資産直入法があり、企業はいずれかを選択して継続適用する必要があります。また、純資産に直入する金額には必ず税効果会計を適用し、「その他有価証券評価差額金」として計上することが求められます。自社の保有目的や財務戦略に照らし合わせ、適切な会計処理を選択することが重要です。
参考文献
その他有価証券の評価に関するよくある質問まとめ
Q.その他有価証券とはどのような有価証券ですか?
A.売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外のすべての有価証券を指します。業務提携目的の株式などが該当します〔企業会計基準第10号 第18項〕。
Q.その他有価証券の期末評価はどのように行いますか?
A.原則として期末における時価をもって貸借対照表価額とします。評価差額は毎期末に洗い替え方式により処理されます〔企業会計基準第10号 第18項〕。
Q.全部純資産直入法とはどのような処理方法ですか?
A.評価差益および評価差損の合計額を、当期の損益とせずに直接純資産の部に計上する原則的な処理方法です〔移管指針第9号 第73項〕。
Q.部分純資産直入法とはどのような処理方法ですか?
A.時価が取得原価を上回る銘柄の評価差益は純資産の部に計上し、下回る銘柄の評価差損は当期の損失として処理する方法です〔企業会計基準第10号 第18項(2)〕。
Q.純資産の部に計上する評価差額に税効果会計は必要ですか?
A.はい、純資産の部に計上される評価差額については、実効税率を用いて税効果会計を適用しなければならないと厳格に定められています〔移管指針第9号 第73項〕。
Q.なぜその他有価証券の評価差額は純資産に直入されるのですか?
A.業務提携目的など直ちに売買・換金することに制約を伴う要素があり、時価変動を直ちに当期の損益として処理することは適切ではないと判断されたためです〔企業会計基準第10号 第77項〕。