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【IFRS】IAS第16号 有形固定資産の減価償却を徹底解説

2024-10-26
目次

国際会計基準(IFRS)におけるIAS第16号「有形固定資産」は、企業の財務報告において中心的な役割を果たします。特に、資産価値の配分プロセスである減価償却は、その会計処理における主要な論点の一つです(IAS16.1)。本稿では、IAS第16号が要求する減価償却の定義、測定単位、認識、償却期間、および償却方法について、関連する条項番号を明記しつつ、実務に即して詳細に解説いたします。

減価償却の定義と基本原則

減価償却の会計処理を理解する上で、まずその基本的な定義と原則を正確に把握することが不可欠です。IAS第16号では、減価償却を資産価値の体系的な配分プロセスとして位置づけています。

減価償却の定義(第6項)

IAS第16号における減価償却(Depreciation)とは、資産の償却可能額を、その耐用年数にわたって規則的に配分することを指します(IAS16.6, IAS16.50)。これは単なる価値の減少を記録するだけでなく、資産の使用による経済的便益の消費を費用として認識する会計手続きです。

関連用語の解説

減価償却を計算するためには、以下の3つの重要な要素を理解する必要があります。

用語 定義(IAS第6項)
償却可能額
(Depreciable Amount)
資産の取得原価(またはそれに代わる金額)から、残存価額を控除した金額です。この金額が、耐用年数にわたって費用配分される対象となります(IAS16.50)。
残存価額
(Residual Value)
資産が耐用年数を終え、処分される状態になったと仮定した場合に、企業がその処分から得られると見込まれる純額(処分コスト控除後)を指します(IAS16.6)。
耐用年数
(Useful Life)
企業が資産を利用可能であると見込む期間、またはその資産から得られると見込まれる生産量やそれに類する単位数を指します(IAS16.6)。

減価償却の基本原則(第50項)

IAS第16号は、資産の償却可能額を、その耐用年数にわたって規則的な方法で配分することを一貫して要求しています(IAS16.50)。この「規則的な方法」とは、資産の将来の経済的便益が消費されると予想されるパターンを最もよく反映する方法を指します。

減価償却の測定単位(個別減価償却)

有形固定資産は、複数の異なる構成部分から成り立つ場合があります。IAS第16号では、これらの構成部分を個別に管理し、減価償却を行う「コンポーネント・アプローチ」を要求しています。

重大な構成部分の個別償却(第43項、第44項)

有形固定資産項目の取得原価総額と比較して重大な各構成部分は、個別に減価償却しなければなりません(IAS16.43)。これは、各構成部分の耐用年数や価値の消費パターンが異なる可能性があるためです。
例えば、航空機の場合、機体とエンジンはそれぞれ耐用年数が異なるため、個別に減価償却計算を行うことが適切とされています(IAS16.44)。

残りの構成部分とグループ化(第45項~第47項)

重大な構成部分を個別に償却した上で、残りの部分の会計処理は以下のように規定されています。

対象 要求事項
残りの構成部分 個々には重大でない構成部分からなる「残りの部分」についても、まとめて個別に減価償却を行います(IAS16.46)。企業は、重大でない部分を個別に償却することも選択できます(IAS16.47)。
グループ化 複数の重大な構成部分であっても、耐用年数と減価償却方法が同一である場合には、減価償却費の算定上、それらをグループ化することが認められます(IAS16.45)。

減価償却費の認識と表示

計算された減価償却費を財務諸表のどこに、どのように認識するかは、企業の損益に直接的な影響を与えます。

純損益への認識が原則(第48項)

各会計期間の減価償却費は、原則として純損益(損益計算書)に費用として認識しなければなりません(IAS16.48)。ただし、他の資産の帳簿価額に含められる場合は例外となります。

他の資産の取得原価への算入(第49項)

特定の状況下では、減価償却費が他の資産の取得原価の一部を構成することがあります。これは、ある有形固定資産に具現化された将来の経済的便益が、他の資産の製造過程で消費されるためです(IAS16.49)。

  • 例1:棚卸資産
    製造工場の建物や機械設備の減価償却費は、製品の加工費の一部として棚卸資産の取得原価に含められます(IAS第2号参照)。
  • 例2:無形資産
    研究開発活動に使用される有形固定資産の減価償却費は、開発要件を満たす場合、無形資産の取得原価に含めることができます(IAS第38号参照)。

償却期間に関する要求事項

減価償却をいつ開始し、いつ停止するのか、また耐用年数をどのように決定するのかについて、IAS第16号は明確な指針を示しています。

減価償却の開始と停止(第55項)

減価償却のタイミングは厳密に定められています。

タイミング 規定
開始時期 資産が使用可能となった時に開始します。これは、経営者が意図した方法で稼働できる場所および状態に資産が置かれた時点を指します(IAS16.55)。
停止時期 「IFRS第5号に従い売却目的保有に分類された日」「資産の認識が中止された日」いずれか早い日をもって停止します(IAS16.55)。

重要な点として、資産が一時的に使用されていない遊休状態であっても、あるいは活発な使用から外れた場合でも、減価償却が完了していない限り償却を停止することはできません(IAS16.55)。ただし、生産高比例法を採用している場合は、生産活動がない期間の減価償却費はゼロになることがあります。

残存価額と耐用年数の定期的な再検討(第51項)

資産の残存価額耐用年数は、固定的なものではなく、少なくとも各事業年度末に再検討しなければなりません(IAS16.51)。もし、再検討の結果、当初の見積りと差異が生じた場合は、その変更をIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い、会計上の見積りの変更として将来に向かって会計処理します。

耐用年数を決定する際の考慮要素(第56項、第57項)

資産の耐用年数は、企業の資産管理方針や事業環境を反映するものであり、その決定には以下の全ての要因を総合的に考慮する必要があります(IAS16.56)。

要因 内容
予想される使用量 資産の生産能力や過去の実績などを基に評価します。
予想される物理的減耗 操業シフトの回数、修繕・維持管理計画、保管状況などを考慮します。
技術的・経済的陳腐化 生産技術の進化や市場需要の変化、製品販売価格の下落予測などから生じる陳腐化を考慮します。
法的・契約上の制約 関連するリースの満了日など、資産の使用に対する法的な制約を考慮します。

なお、耐用年数は企業にとっての資産の期待効用(企業がどう使うか)の観点から定義されるため、資産そのものの経済的耐用年数(物理的に使用できる期間)よりも短くなる場合があります(IAS16.57)。

土地と建物の特有の取扱い(第58項、第59項)

土地と建物は一体として扱われることが多いですが、会計上は明確に区別されます。

  • 土地:耐用年数が無限であると考えられるため、原則として減価償却は行いません(IAS16.58)。
  • 建物:耐用年数が有限であるため、償却対象資産となります。建物が立地する土地の価値が上昇したとしても、建物の減価償却計算には影響を与えません(IAS16.58)。
  • 土地の原状回復コスト:例外として、土地の取得原価に現場の解体・除去・原状回復コストが含まれている場合、そのコスト部分は、便益を享受する期間にわたって減価償却されます(IAS16.59)。

減価償却方法の選択と変更

償却可能額を耐用年数にわたってどのように配分するか、その方法の選択は企業の任意ですが、合理的な根拠が求められます。

消費パターンの反映(第60項)

採用する減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予想されるパターンを最もよく反映するものでなければなりません(IAS16.60)。つまり、方法の選択は恣意的であってはならず、資産の使われ方の実態に即している必要があります。

許容される減価償却方法(第62項)

IAS第16号では、償却可能額を規則的に配分するために、以下のような様々な減価償却方法の使用を例示しています。

償却方法 特徴
定額法
(Straight-line method)
資産の耐用年数にわたり、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。資産の便益が時の経過とともに均等に消費されると想定される場合に適しています。
定率法
(Diminishing balance method)
資産の帳簿価額に対して一定率を乗じて減価償却費を計算する方法です。使用開始初期に費用が大きく、年々減少していきます。技術的陳腐化が早い資産などに適しています。
生産高比例法
(Units of production method)
資産の実際の使用量や生産高に応じて減価償却費を計上する方法です。資産の便益の消費が、その稼働レベルに直接比例する場合に適しています。

収益に基づく減価償却方法の禁止(第62A項)

IAS第16号は、資産の使用を含む活動から生み出される収益を基礎とした減価償却方法を認めていません(IAS16.62A)。なぜなら、収益は販売活動や価格変動、インフレーションなど、資産の経済的便益の消費とは直接関係のない多くの外部要因の影響を受けるためです。減価償却はあくまで資産の消費パターンを反映すべきであり、収益パターンを反映するものではないとされています。

減価償却方法の再検討と変更(第61項)

耐用年数や残存価額と同様に、適用している減価償却方法も少なくとも各事業年度末に再検討する必要があります。もし、経済的便益の予想される消費パターンに著しい変化があった場合には、その変化後のパターンを反映するように減価償却方法を変更しなければなりません。この変更も会計上の見積りの変更として会計処理されます(IAS16.61)。

まとめ

IAS第16号「有形固定資産」における減価償却の規定は、資産の経済的実態を財務諸表に公正に反映させるための重要な会計手続きです。その核心は、資産の経済的便益の消費パターンを最もよく反映する方法で、償却可能額を耐用年数にわたって規則的に配分することにあります。また、個別減価償却(コンポーネント・アプローチ)の適用や、耐用年数、残存価額、償却方法の定期的な見直しが求められる点も、実務上の重要なポイントです。これらの要求事項を正確に理解し、適用することが、信頼性の高い財務報告の基礎となります。

IAS第16号「有形固定資産」の減価償却に関するよくある質問

Q. IAS第16号における減価償却とは何ですか?

A. 減価償却とは、有形固定資産の取得原価から残存価額を引いた「償却可能額」を、その資産が使える期間である「耐用年数」にわたって規則的に費用として配分する手続きのことです(IAS第16号 第6項、第50項)。

Q. 減価償却はいつ開始し、いつ停止するのですか?

A. 減価償却は、資産が経営者の意図した方法で使える状態になった時(使用可能時)に開始します。そして、売却目的保有に分類された日か、資産の認識を中止した日のいずれか早い日に停止します。なお、資産が一時的に使われていない(遊休)状態でも、減価償却は停止しません(IAS第16号 第55項)。

Q. 土地と建物の減価償却の扱いはなぜ違うのですか?

A. 土地は一般的に耐用年数が無限と考えられるため、減価償却は行いません。一方、建物は耐用年数が有限であるため、減価償却の対象となります(IAS第16号 第58項)。ただし、土地の取得原価に原状回復コストが含まれる場合、その部分は便益を受ける期間にわたり減価償却されます(IAS第16号 第59項)。

Q. IFRSで認められている減価償却方法には何がありますか?

A. 主に、毎年一定額を償却する「定額法」、償却額が年々減少する「定率法」、資産の使用量や生産量に応じて償却する「生産高比例法」などがあります。どの方法を選ぶかは、資産の経済的便益がどのように消費されるかの予測パターンを最もよく反映するものを選択します(IAS第16号 第62項)。収益に基づく方法は認められていません(IAS第16号 第62A項)。

Q. 飛行機のように複数の部品で構成される資産はどのように減価償却しますか?

A. 飛行機の機体とエンジンのように、資産の取得原価のうち重要性がある構成部分は、それぞれ個別に減価償却しなければなりません。これを「コンポーネント・アプローチ」または「個別減価償却」と呼びます。各構成部分で耐用年数が異なる場合などに適用されます(IAS第16号 第43項)。

Q. 一度決めた耐用年数や残存価額は変更できますか?

A. はい、変更できます。耐用年数と残存価額は、少なくとも各事業年度の末日に見直しを行う必要があります。もし当初の見積りと現在の予測が異なる場合は、その変更を「会計上の見積りの変更」として会計処理します(IAS第16号 第51項)。

事務所概要
社名
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