企業会計において、非上場株式をはじめとする金融商品の評価は重要な実務論点となります。本記事では、「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」「移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針」「移管指針第12号 金融商品会計に関するQ&A」に基づき、実務上迷いやすい市場価格のない株式等の評価原則、減損処理の判定基準、および第三者割当増資時の特例について詳細に解説いたします。
市場価格のない株式等の定義と評価の原則
金融商品会計における市場価格のない株式とは、金融商品取引所などの市場において取引されていない株式を指します(企業会計基準第10号 第19項)。また、株式会社の株式だけでなく、合同会社の出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものについても株式と同様の取扱いとされ、これらを総称して市場価格のない株式等と定義されています(企業会計基準第10号 第19項)。有価証券の期末評価は、原則として時価評価や保有目的に応じた会計処理が行われますが、市場価格のない株式等については例外的な取扱いが定められています。具体的には、売買目的有価証券やその他有価証券といった保有目的の区分にかかわらず、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とすることが規定されています(企業会計基準第10号 第19項、第81項)。
| 項目 | 会計上の取扱い(企業会計基準第10号 第19項) |
|---|---|
| 対象範囲 | 市場で取引されていない株式、および出資金等の持分請求権 |
| 期末評価額 | 保有目的にかかわらず「取得原価」で評価 |
取得原価で評価する背景と結論の根拠
金融商品の評価において、客観的な時価の測定が可能なものについては時価評価を行うことが基本原則とされています。以前の会計基準では「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」という概念が存在し、非上場株式等が含まれていました。しかし、2019年の改正会計基準において時価の定義が変更され、時価算定会計基準の考え方が導入されたことに伴い、この「極めて困難」という規定は削除されました(企業会計基準第10号 第81-2項)。規定は削除されたものの、市場価格のない株式等に関しては、たとえDCF法や純資産方式などの何らかの評価方式によって価額の算定が可能であったとしても、算定された価額を会計上の時価とはしないという従来の基本的な考え方が踏襲されました。その結果、これらは時価算定の対象外とされ、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とするという例外的な取扱いが維持されると結論付けられています(企業会計基準第10号 第81-2項)。
| 基準の変遷 | 市場価格のない株式等の取扱い(企業会計基準第10号 第81-2項) |
|---|---|
| 旧基準の考え方 | 時価を把握することが極めて困難と認められるため取得原価 |
| 現行基準の考え方 | 評価額の算定が可能でも会計上の時価とはせず、引き続き取得原価 |
市場価格のない株式等の減損処理と判定基準
原則として取得原価で評価される市場価格のない株式等であっても、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときには、帳簿価額を相当額減額する減損処理を行い、その評価差額は当期の損失(投資有価証券評価損等)として処理しなければなりません(企業会計基準第10号 第21項、移管指針第9号 第92項)。また、この減損処理によって切り下げられた後の実質価額は、翌期首の新たな取得原価として取り扱われます。これを実務上切放し処理と呼びます(企業会計基準第10号 第22項)。
実質価額の算定方法
減損判定の基礎となる実質価額は、発行会社の1株当たりの純資産額を基礎として算定されます(移管指針第9号 第92項)。この際、発行会社の財務諸表上の純資産額をそのまま用いるのではなく、原則として保有する土地や有価証券などの資産等の時価評価に基づく評価差額を加味して修正した後の純資産額を用いるという厳格な手続が求められます(移管指針第9号 第92項)。さらに、株式取得時に超過収益力や経営権等を反映し、1株当たり純資産額よりも高い価額で取得している場合には、その差額(のれん相当額等)を加味した金額が実質価額として評価されるケースもあります(移管指針第9号 第92項)。基礎とする財務諸表は、決算日までに入手し得る直近のものを利用し、その後の状況変化で財政状態に重要な影響を及ぼす事項(重要な後発事象等)が判明していれば、それを加味して算定する必要があります(移管指針第9号 第92項)。
| 実質価額の算定要素 | 実務上の留意点(移管指針第9号 第92項) |
|---|---|
| 基礎となる純資産 | 財務諸表の純資産に資産等の時価評価差額を加味して修正する |
| 取得時の超過収益力 | のれん相当額等が含まれる場合は加味して実質価額を算定する |
「著しく低下したとき」の判定基準と回復可能性
実質価額が著しく低下したときとは、算定された実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合を指します(移管指針第9号 第92項、移管指針第12号 Q33)。実質価額が50%程度以上低下した場合には、原則として減損処理が強制されます。ただし、例外として回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減額をしない(減損を見送る)ことも認められています(移管指針第9号 第92項、移管指針第12号 Q33)。この回復可能性の判定にあたっては、投資先が子会社や関連会社であれば事業計画等を入手し、当該事業計画が合理的で実行可能か、経営改善の見通しがあるか等を慎重に検討します。事業計画等の実行可能性に合理的な疑いがある場合や、過去の実績が計画を継続的に下回って推移しているような場合には、回復可能性はないものと判断し、直ちに減損処理を行わなければなりません(移管指針第12号 Q33)。
| 減損の判定基準 | 具体的な要件(移管指針第9号 第92項、移管指針第12号 Q33) |
|---|---|
| 原則(強制評価減) | 実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合 |
| 例外(減損見送り) | 事業計画等により回復可能性が十分な証拠で裏付けられる場合 |
財政状態が悪化した会社の第三者割当増資の特例
すでに業績不振により財政状態が悪化し、債務超過等に陥っている会社の株式を、経営再建や企業支援等を目的として第三者割当増資により引き受ける実務ケースがあります。この場合に関する特定の会計ルールが設けられています(移管指針第12号 Q34)。このケースでは、引き受けた時点で1株当たり純資産額に比べて高い価額で株式を取得することになりますが、将来の業績回復を見込んだ事業計画等が合理的であり、今回の増資額の十分性等が確認できるのであれば、直ちに当該期末において評価損(減損処理)を計上する必要はありません(移管指針第12号 Q34)。ただし、据え置いた後も損益見込みや資金収支計画等を毎期見直す義務があります。事業計画等に基づく業績回復が予定通り進まないことが判明した場合には、その期末において直ちに減損処理を行わなければなりません(移管指針第12号 Q34)。
| 増資時の特例要件 | 会計処理の判断(移管指針第12号 Q34) |
|---|---|
| 合理的な事業計画がある場合 | 増資額の十分性が確認できれば直ちに減損処理は不要 |
| 計画通りに進捗しない場合 | 回復が見込めなくなった期末において速やかに減損処理を実施 |
実務ケーススタディ:非上場株式の減損と増資
市場価格のない株式等の規定が、実際のビジネスや会計実務においてどのように適用されるか、具体的な金額を用いた2つのケーススタディで解説します。
ケース1:非上場株式の減損処理と純資産の時価評価
企業A社は、取引先であるB社(非上場)の株式を取得原価1,000万円で保有し、「その他有価証券」の市場価格のない株式等として処理していました(企業会計基準第10号 第19項、第81項)。当期末においてB社は多額の赤字を計上し、財務諸表上の純資産額が大幅に減少しました。A社がB社の保有不動産の含み損等を加味して実質価額を算定したところ、A社の持分に相当する実質価額は300万円となっていました(移管指針第9号 第92項)。この実質価額300万円は、取得原価1,000万円に対して70%の下落であり、50%程度以上低下の基準に明確に該当します(移管指針第9号 第92項、移管指針第12号 Q33)。B社から提出された事業計画にも抜本的な経営改善の根拠(十分な証拠)が見当たらなかったため、A社は回復可能性がないと判断し、差額の700万円を「投資有価証券評価損」として当期の特別損失等に計上する減損処理を行いました(企業会計基準第10号 第21項、移管指針第12号 Q33)。翌期首以降、この株式の取得原価は300万円として取り扱われます(企業会計基準第10号 第22項)。
ケース2:子会社への第三者割当増資と回復可能性の判定
企業C社は、業績不振により債務超過に陥っている100%子会社D社に対し、経営再建を目的として第三者割当増資を行い、新たに5,000万円を出資して株式を取得しました。出資直後のD社は依然として債務超過状態であるため、形式的な1株当たり純資産額はマイナスであり、出資額の5,000万円に対して実質価額は著しく低下しているように見えます。しかしC社は、D社の抜本的なリストラ策と新製品投入に関する綿密で合理的な事業計画を策定しており、今回の5,000万円の増資によって当面の資金繰りが安定し、数年以内に債務超過を解消する見込みが十分にありました。このため、C社は増資を行った事業年度の期末において、直ちにこの5,000万円の追加出資分について減損処理を行うことはせず、取得原価のまま据え置く実務判断を行いました(移管指針第12号 Q34)。翌期以降、C社はD社の業績が計画通りに推移しているかを毎期モニタリングし、もし計画が未達となり回復が見込めなくなった時点で、速やかに減損処理を実施することになります(移管指針第12号 Q34)。
まとめ
市場価格のない株式等の会計処理は、原則として取得原価で評価されますが、発行会社の財政状態が悪化し実質価額が50%程度以上低下した場合には、厳格な減損処理が求められます。実質価額の算定における資産の時価評価の反映や、事業計画に基づく回復可能性の判定、さらには債務超過会社への増資時の特例など、実務においては高度な判断が必要となります。各会計基準や実務指針の要件を正確に理解し、客観的かつ合理的な証拠に基づいた会計処理を行うことが重要です。
参考文献
市場価格のない株式等のよくある質問まとめ
Q.市場価格のない株式等はどのように期末評価を行いますか?
A.保有目的の区分にかかわらず、原則として「取得原価」をもって貸借対照表価額とします(企業会計基準第10号 第19項)。
Q.減損判定の基礎となる実質価額はどのように算定しますか?
A.発行会社の1株当たり純資産額を基礎とし、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額を加味して修正した純資産額を用います(移管指針第9号 第92項)。
Q.減損処理が必要となる「著しい低下」の基準は何ですか?
A.算定された実質価額が、取得原価に比べて50%程度以上低下した場合を指し、原則として減損処理が強制されます(移管指針第9号 第92項、移管指針第12号 Q33)。
Q.減損処理を行った後の帳簿価額は翌期以降どうなりますか?
A.減損処理によって切り下げられた実質価額が、翌期首の新たな取得原価として取り扱われます。これを切放し処理と呼びます(企業会計基準第10号 第22項)。
Q.債務超過の子会社に増資した場合、すぐに減損処理が必要ですか?
A.将来の業績回復を見込んだ合理的な事業計画があり、増資額の十分性が確認できれば、直ちに期末に減損処理を計上する必要はありません(移管指針第12号 Q34)。
Q.回復可能性の判定にはどのような確認が必要ですか?
A.事業計画等を入手し、計画が合理的で実行可能か検討します。実績が計画を下回るなど疑いがある場合は回復可能性なしと判断し減損処理を行います(移管指針第12号 Q33)。