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内部監査・監査役監査の確認事項を網羅!実務で使えるチェックリスト

2025-08-28
目次

企業の健全な経営を維持し、持続的な成長を遂げるためには、内部監査監査役監査が不可欠です。これらの監査は、組織のガバナンスを強化し、リスクを管理する上で中心的な役割を担います。しかし、具体的に「何を」「どのように」確認すればよいのか、その範囲の広さから担当者様が苦慮されるケースも少なくありません。本記事では、内部監査および監査役監査における重要な確認事項を、会計監査から業務監査、システム監査に至るまで、網羅的かつ具体的に解説します。実務ですぐに活用できるチェックリストとしてご参照ください。

内部監査と監査役監査の基礎知識

監査の確認事項を理解する前提として、まず内部監査と監査役監査のそれぞれの目的と役割、そして両者の関係性を明確にすることが重要です。これらは「三様監査」の一部として、相互に連携しながら企業のガバナンスを支えています。

内部監査の目的と役割

内部監査は、経営目標の効果的な達成に役立つことを目的として、経営者の指示のもと、社内の独立した部門(内部監査室など)が実施します。その主な役割は、業務の有効性や効率性、コンプライアンス遵守状況などを客観的に評価し、改善のための助言を行うことです。あくまで経営者のための監査であり、組織内部の視点から問題点を発見し、業務プロセスの改善を促す社内コンサルタントのような役割を担います。

監査役監査の目的と役割

監査役監査は、株主の負託を受けた監査役(または監査役会)が、取締役の職務執行の適法性・妥当性を監視することを目的とします。これは会社法に基づき実施されるもので、主に取締役の不正行為や法令・定款違反がないかをチェックする「適法性監査」が中心です。監査範囲は、計算書類等をチェックする「会計監査」と、取締役の業務全般をチェックする「業務監査」の両方に及び、株主の利益を守るための独立した機関としての役割が求められます。

監査の種類 概要
内部監査 経営者のための監査。業務の有効性・効率性を評価し、経営目標達成を支援する。
監査役監査 株主のための監査。取締役の職務執行が適法・妥当であるかを監視する。
外部監査(会計監査人監査) 投資家や債権者のための監査。公認会計士または監査法人が財務諸表の適正性を監査する。

三様監査における連携の重要性

内部監査、監査役監査、そして会計監査人による外部監査は、合わせて「三様監査」と呼ばれます。それぞれが独立した立場から監査を行いますが、監査の重複を避け、効率的かつ効果的な監視体制を構築するためには、三者間の緊密な連携が極めて重要です。具体的には、監査計画や監査結果について情報を共有するため、四半期に1回以上の定期的な意見交換会などを設けることが推奨されます。

会計監査における主要な確認事項

会計監査は、企業の財務諸表が適正に作成されているかを確認するプロセスです。これは、すべての監査の基礎となる重要な領域であり、『企業会計原則』をはじめとする会計基準への準拠が求められます。

貸借対照表(B/S)関連の確認事項

企業の財政状態を正しく示す貸借対照表について、各勘定科目の実在性、網羅性、評価の妥当性を検証します。特に以下の項目は重点的に確認が必要です。

確認項目 具体的な確認内容
現金・預金 帳簿残高と金融機関発行の残高証明書との照合。金庫内の現金実査。
売掛金 滞留債権の有無と回収状況の確認。貸倒引当金の計上基準と金額の妥当性評価。(企業会計原則注解〔注18〕)
棚卸資産 実地棚卸への立会いと帳簿残高との差異分析。評価損の計上要否の検討。(企業会計原則 第三 貸借対照表原則 五のA)
固定資産 固定資産台帳との照合、現物確認。減価償却計算の正確性と償却方法の継続性。(企業会計原則 第三 貸借対照表原則 五のD)

損益計算書(P/L)関連の確認事項

企業の経営成績を示す損益計算書について、収益と費用が適切な期間に帰属しているか、網羅的に計上されているかを検証します。

確認項目 具体的な確認内容
売上高 売上計上基準(出荷基準、検収基準等)の妥当性と一貫した適用。期末前後の取引における期間帰属の正確性。(企業会計原則 第二 損益計算書原則 三のB)
売上原価 原価計算方法の妥当性と継続適用。仕入計上の網羅性と期間帰属の正確性。
販売費及び一般管理費 費用の網羅的な計上と勘定科目の分類の妥当性。架空経費や目的外支出の有無。

会計処理と表示の妥当性

個別の勘定科目だけでなく、会計処理全体の方針や財務諸表の表示方法についても確認が必要です。特に会計方針の変更には正当な理由が求められます。

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』第4-2項では、会計方針の変更が「会計事象等に関するより適切な会計処理方法を反映するため」など、正当な理由に基づく場合にのみ認められると規定されています。監査においては、変更理由の妥当性や、変更に伴う影響額の注記が適切に行われているかを確認します。また、重要な会計方針(減価償却方法、棚卸資産の評価基準など)が財務諸表に適切に開示されているかも重要な確認事項です。(同会計基準 第4-3項、第4-4項)

業務監査における主要な確認事項

業務監査は、会計領域以外のすべての業務活動を対象とし、法令や社内規程が遵守され、業務が効率的に遂行されているかを検証します。企業の規模や業種によって確認事項は多岐にわたりますが、共通して重要な項目が存在します。

コンプライアンス・リスク管理体制

企業の存続を揺るがしかねないコンプライアンス違反やリスク管理の不備は、最優先で確認すべき項目です。

確認項目 具体的な確認内容
関連法令の遵守 会社法、金融商品取引法、個人情報保護法、労働基準法等の遵守状況。許認可の取得・更新手続きの管理。
稟議規程・職務権限 稟議規程に定められた承認ルートが遵守されているか。特に事後稟議が発生していないか。職務権限を逸脱した取引の有無。
反社会的勢力排除 取引開始時の反社チェックの実施状況と記録の保管。契約書への暴力団排除条項の導入。
内部通報制度 制度の社内周知状況。通報窓口(社内外)の設置と機能性。通報後の調査・対応プロセスの実効性。

人事・労務管理

従業員の労働環境は、企業の社会的評価や生産性に直結する重要な要素です。労務コンプライアンス違反は重大な経営リスクとなります。

特に、勤怠管理の客観性が重要です。タイムカード、PCのログオン・ログオフ記録、入退室記録などの客観的な記録と、自己申告された労働時間に著しい乖離がないかを確認します。また、時間外労働が労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の範囲内に収まっているか、未払残業代が発生していないかを給与データと照合して検証します。

購買・販売・在庫管理

企業の収益活動の根幹をなすプロセスの健全性を確認します。

購買プロセスでは、特定の業者との癒着を防ぐため、50万円以上の取引において相見積もりが取得されているかなどを確認します。販売プロセスでは、新規取引先の与信管理が社内規程に基づき適切に行われているか、販売価格の決定プロセスは妥当かなどを検証します。在庫管理については、会計監査とも関連しますが、長期滞留在庫や不動在庫の管理状況、廃棄ルールの運用状況などを確認します。

情報システム・セキュリティ監査の確認事項

現代の企業活動は情報システムに大きく依存しており、システム監査の重要性は年々高まっています。情報漏洩やシステム障害は、事業継続に深刻な影響を与えます。

アクセス管理と権限設定

情報資産を保護する基本は、適切なアクセス管理です。

システムへのアクセス権限が、職務分掌の原則に基づき、必要最小限の権限(Need-to-Know)で付与されているかを確認します。また、人事異動や退職に伴うアカウントの権限変更・削除が遅滞なく行われているかを、人事情報とシステムログを突合して検証します。特に、管理者権限などの特権IDの利用申請・承認プロセスと、操作ログの定期的なレビュー状況は重点確認項目です。

セキュリティ対策とインシデント対応

サイバー攻撃などの脅威から企業を守るための技術的・組織的対策を検証します。

全従業員のPCにウイルス対策ソフトが導入され、定義ファイルが常に最新の状態に保たれているかを確認します。また、情報セキュリティインシデント(情報漏洩、ウイルス感染など)が発生した際の報告体制、初動対応、復旧、原因究明、再発防止策の策定といった一連の対応プロセスが文書化され、関係者に周知されているかを確認します。定期的な対応訓練の実施記録も検証対象となります。

監査の年間スケジュールと実務のポイント

監査を場当たり的に行うのではなく、計画的に実施することで、その実効性は大きく向上します。一般的な年間スケジュールを参考に、自社の状況に合わせて計画を策定することが重要です。

年間監査計画の策定(4月~5月)

事業年度の開始後、速やかに当該年度の監査計画を策定します。前年度の監査結果や事業環境の変化を踏まえたリスクアプローチに基づき、監査対象部門、監査のテーマ、重点項目、実施時期を定めます。策定した計画は、内部監査であれば代表取締役、監査役監査であれば監査役会で承認を得ます。

監査の実施(6月~1月)

計画に基づき、監査を実施します。通常、本調査の1ヶ月程度前に「予備調査」として、対象部門へのヒアリングや関連資料の事前提出を依頼します。「本調査」では、監査手続書に沿って、証憑書類の閲覧、担当者へのヒアリング、業務プロセスの観察などを行います。監査中は、指摘事項だけでなく、優れた取り組み(グッドプラクティス)も発見し、全社展開を促す視点も重要です。

監査報告とフォローアップ(2月~3月)

監査で発見された事実や評価、改善提案を「監査報告書」として取りまとめ、被監査部門の責任者および経営層に報告します。指摘事項に対しては、被監査部門から具体的な改善計画と実施期限を記載した「改善報告書」の提出を求めます。そして、最も重要なのがフォローアップ監査です。提出された改善計画が期限通りに実行され、問題点が是正されているかを次年度の監査計画に組み込むか、別途期中に確認します。指摘して終わりではなく、改善されるまで追跡することが監査の実効性を担保します。

まとめ

内部監査および監査役監査は、単なる形式的な手続きではなく、企業の価値を守り、高めるための重要な経営機能です。本記事で解説した確認事項は、多くの企業に共通する基本的なものですが、自社の事業内容や規模、リスク環境に応じて、監査の重点項目を常に最適化していく必要があります。会計、業務、システムの各領域で網羅的な視点を持ち、計画的な監査と着実なフォローアップを実践することで、コーポレート・ガバナンスを強化し、ステークホルダーからの信頼を獲得することが可能となります。

参考文献:
・企業会計基準委員会(ASBJ)「企業会計原則・同注解
・企業会計基準委員会(ASBJ)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
・企業会計基準委員会(ASBJ)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針

内部監査・監査役監査のよくある質問まとめ

Q. 内部監査では具体的にどのようなことが確認されますか?

A. 業務プロセスの有効性、法令や社内規程の遵守状況、資産の保全状況などが主な確認事項です。具体的には、業務マニュアル通りの運用がされているか、承認手続きは適切か、リスク管理が機能しているかなどをチェックします。

Q. 監査役監査と内部監査の違いは何ですか?

A. 内部監査は、経営者の指示のもと業務の改善を目的として行われます。一方、監査役監査は、取締役の職務執行が法令や定款に違反していないかを監督する、独立した立場からの監査です。目的と立場が異なります。

Q. 監査を受ける前に、どのような準備をしておけば良いですか?

A. 事前に監査の目的と範囲を確認し、関連する規程や業務マニュアル、過去の議事録、取引記録などの資料を整理しておくことが重要です。また、担当者が質問にスムーズに回答できるよう、業務内容を再確認しておくと良いでしょう。

Q. 監査でよくある指摘事項にはどのようなものがありますか?

A. 承認手続きの不備、職務分掌の形骸化、規程やマニュアルの未整備・未更新、資産管理の不徹底などがよくある指摘事項として挙げられます。日頃からルールに基づいた業務遂行を心がけることが大切です。

Q. 内部統制の監査では、特にどの点が重要視されますか?

A. 内部統制の監査では、「統制環境」「リスクの評価と対応」「統制活動」「情報と伝達」「モニタリング」「ITへの対応」の6つの基本的要素が機能しているかが重要視されます。特に、職務分掌や承認プロセスといった統制活動が適切に運用されているかがポイントになります。

Q. 監査の質問にうまく答えられるか不安です。どうすれば良いですか?

A. 事実に基づいて正直に回答することが基本です。不明な点や即答できない場合は、憶測で答えず「確認して後ほど回答します」と伝えましょう。監査は問題点を発見し改善する機会と捉え、協力的な姿勢で臨むことが大切です。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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