会社の資本金を変更(増資・減資)する際には、会社法に基づいた厳格な手続きが求められます。特に、法務局への変更登記申請は必須であり、期限内に正確に行わなければなりません。本記事では、会社の資本金を変更する際の具体的な手続きの流れ、必要書類、関連費用、そして注意点について、企業の担当者様向けに網羅的に解説いたします。
資本金の変更(増資・減資)の概要
資本金の額を変更することは、会社の財産的基礎や社会的信用に影響を与える重要な意思決定です。手続きは、資本金を増やす「増資」と、減らす「減資」に大別され、それぞれ目的や法的手続きが異なります。
増資の目的と種類
増資は、主に新規事業の展開や財務体質の強化を目的として行われます。増資には、新たな出資を受ける「有償増資」と、既存の資本準備金や利益剰余金を資本金に振り替える「無償増資」があります。
増資の種類 | 概要 |
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有償増資 | 新たに株式を発行し、その対価として出資を受け、資本金を増加させる方法です。第三者割当増資、株主割当増資、公募増資などがあります。 |
無償増資 | 会社の財産である資本準備金や利益剰余金を資本金に組み入れる方法です。新たな資金調達は伴いませんが、貸借対照表上の資本金の額が増加します。 |
減資の目的と種類
減資は、主に過去の損失を補填する「欠損填補」や、株主への財産の払い戻しを目的として行われます。減資にも、株主に財産を払い戻す「有償減資」と、払い戻しを行わない「無償減資」が存在します。
減資の種類 | 概要 |
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有償減資 | 資本金を減少させ、その減少額に相当する財産を株主に払い戻す方法です。会社の財産が外部に流出します。 |
無償減資 | 貸借対照表上の資本金の額を減少させるだけで、株主への財産の払い戻しは行いません。主に、繰越利益剰余金のマイナス(欠損)を填補するために利用されます。 |
資本金変更が経営に与える影響
資本金の額は、会社の信用力や税負担に直接影響します。例えば、増資により自己資本比率が向上し、金融機関からの融資が受けやすくなるメリットがあります。一方で、資本金が1,000万円以上になると設立初年度から消費税の課税事業者になったり、資本金が1億円を超えると法人住民税の均等割が増加したり、中小企業向けの税制優遇が受けられなくなったりするデメリットも考慮する必要があります。
増資の手続きの流れと必要書類
増資、特に一般的な第三者割当増資を行う場合の手続きは、以下のステップで進められます。各ステップで法的な要件が定められているため、慎重な対応が求められます。
株主総会での決議
まず、株主総会を招集し、募集株式の数、払込金額、払込期日などの「募集事項」を決定します。この決議は、原則として株主総会の普通決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成)によって行われます。
株式の申込みと割当て
決議後、引受希望者から株式の引受申込を受け付けます。その後、取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)で、誰に何株を割り当てるかを決定する「割当決議」を行います。
出資金の払込み
株式の引受人は、定められた払込期日までに、会社が指定する金融機関の口座に払込金額の全額を払い込みます。
法務局への変更登記申請
出資金の払込期日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ資本金の額の変更登記を申請しなければなりません。この期限を過ぎると過料の対象となるため注意が必要です。
書類名 | 概要 |
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株式会社変更登記申請書 | 法務局指定の様式で作成します。登録免許税分の収入印紙を貼付します。 |
株主総会議事録 | 募集事項を決定した株主総会の議事録です。 |
取締役会議事録 | 株式の割当てを決定した取締役会の議事録です(取締役会非設置会社の場合は不要)。 |
株主リスト | 株主総会の決議時点での株主名簿を基に作成します。 |
募集株式の引受けの申込みを証する書面 | 株式引受申込書などが該当します。 |
払込みがあったことを証する書面 | 払込取扱機関が作成した払込金受入証明書、または代表取締役が作成した証明書と払込口座の通帳の写しを合綴したものです。 |
資本金の額の計上に関する証明書 | 会社法第445条第1項の規定に従い、払込金額の2分の1を超えない額を資本準備金とした場合に添付します。 |
減資の手続きの流れと必要書類
減資は、会社の債権者の利益に大きな影響を与える可能性があるため、増資よりも厳格な債権者保護手続きが義務付けられています。
株主総会での特別決議
減資を行うには、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。この決議で、減少させる資本金の額、減少の方法、効力発生日などを定めます。
債権者保護手続き
株主総会での決議後、債権者に対して減資を行う旨を知らせる必要があります。具体的には、以下の手続きを1ヶ月以上の期間を設けて行います。
1. 官報への公告:減資する旨、会社の計算書類に関する事項などを掲載します。
2. 知れたる債権者への個別催告:会社が把握している債権者一人ひとりに対して、書面で通知します。
債権者は、この期間内に異議を述べることができ、異議があった場合は、会社は弁済や担保の提供などの対応を取らなければなりません。
減資の効力発生
債権者保護手続きが完了し、株主総会で定めた効力発生日を迎えると、減資の効力が生じます。
法務局への変更登記申請
減資の効力発生日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請します。こちらも期限厳守です。
書類名 | 概要 |
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株式会社変更登記申請書 | 法務局指定の様式で作成します。登録免許税3万円分の収入印紙を貼付します。 |
株主総会議事録 | 減資を決定した株主総会の特別決議の議事録です。 |
株主リスト | 株主総会の決議時点での株主名簿を基に作成します。 |
公告及び催告をしたことを証する書面 | 官報の写しや、個別催告の際に使用した書面(内容証明郵便の控えなど)が該当します。 |
異議を述べた債権者がいなかったことを証する書面 | 異議を述べた債権者がいなかった場合に添付します。異議があった場合は、その債権者に対して弁済等を行ったことを証する書面が必要です。 |
資本金変更に伴う登記費用
資本金の変更登記には、法務局に納める登録免許税が必要です。また、手続きを専門家に依頼する場合は別途報酬が発生します。
費用の種類 | 金額の目安 |
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登録免許税(増資) | 増加した資本金の額の1,000分の7。この金額が3万円に満たない場合は、3万円となります。 |
登録免許税(減資) | 一律3万円です。 |
官報公告費用(減資の場合) | 約3万円~15万円程度(掲載行数によります)。 |
司法書士への報酬 | 5万円~10万円程度が相場ですが、手続きの複雑さにより変動します。 |
資本金変更後の諸手続き
法務局での登記手続きが完了したら、それで終わりではありません。関係各所への届出が必要になります。
主な届出先は以下の通りです。
・税務署
・都道府県税事務所
・市区町村役場
これらの機関に「異動届出書」を提出します。提出の際には、変更後の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の添付を求められることが一般的です。また、取引のある金融機関にも、登記事項証明書を提出し、代表者や会社情報の変更手続きを行う必要があります。
まとめ
会社の資本金を変更する手続きは、会社の根幹に関わる重要な手続きであり、会社法に則った正確な手順を踏むことが不可欠です。特に、増資と減資では手続きの流れや要件が大きく異なり、減資の場合は債権者保護手続きという時間と手間を要するプロセスが含まれます。いずれの場合も、決議から2週間以内という厳格な登記申請期限が定められており、これを遵守しなければなりません。手続きが複雑で不安な場合は、司法書士などの専門家に相談し、円滑かつ確実に手続きを進めることをお勧めします。
参考文献
- 企業会計基準委員会(ASBJ): 企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(資本金の表示は第4項、第5項に関連)
- 企業会計基準委員会(ASBJ): 企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」
- 企業会計基準委員会(ASBJ): 企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」(資本金の変動の表示に関連)
資本金変更手続きのよくある質問まとめ
Q. 会社の資本金変更にはどのような種類がありますか?
A. 資本金の変更には、資本金を増やす「増資」と、資本金を減らす「減資」の2種類があります。増資は事業拡大の資金調達、減資は欠損填補や税負担の軽減などを目的として行われます。
Q. 資本金を増やす(増資)手続きの流れを教えてください。
A. 主な流れは、①株主総会での決議、②株主からの出資金の払込み、③法務局への変更登記申請、となります。登記申請は、払込みがあった日から2週間以内に行う必要があります。
Q. 資本金を減らす(減資)手続きで注意すべき点は何ですか?
A. 減資では、株主総会の決議に加えて「債権者保護手続」が法律で義務付けられています。これは、官報での公告や個別の催告により、会社の債権者に異議を申し立てる機会を与える手続きです。
Q. 資本金変更の手続きにかかる費用はどのくらいですか?
A. 法務局に支払う登録免許税が必要です。増資の場合は「増加した資本金の額の1000分の7(最低3万円)」、減資の場合は「一律3万円」がかかります。その他、司法書士に依頼する場合は別途報酬が発生します。
Q. 資本金変更の登記申請はいつまでに行う必要がありますか?
A. 資本金の額に変更が生じた効力発生日から「2週間以内」に、本店所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請しなければなりません。期限を過ぎると過料の対象となる可能性があるため注意が必要です。
Q. 資本金が1,000万円を超えると何が変わりますか?
A. 税務上の影響が大きいです。主に、①設立1期目から消費税の納税義務が発生する、②法人住民税の均等割(赤字でも発生する税金)の額が上がる、といった変化があります。